●日本の神信仰が1万年近く絶えないのはなぜか
結局、今回の講義シリーズで申し上げた古代から始まる霊力とか、アニミズムとか、さらにいえば、神信仰、つまり神の発見とか、また産霊神(むすびのかみ)というものを創造していくという、そういう伝統が、縄文まで入れれば1万年近くずっと日本には流れているわけですね。
それがどうして絶えないのか。あるいはそれがどうして変わらないのか。仏教だって変わっている。あるいは仏教を国是としている国もある。また儒教を国是としている国もある。そうした、いってみれば強烈な思想哲学が入ってきながら、神道が神の発見というところからずっとわれわれに馴染み深いものとして、日本のバックグラウンドにあるのはなぜなのか。もし、そこに何か象徴的なものが非常に色濃くなければ、変容してしまいます。だから、そうならないのはなぜなのかと考えて、そこにバッと登場するのが天皇なのです。
●日本の特性を体現する存在としての天皇
では天皇とはどういう存在なのか。また神道とはそもそも何を説いているものなのか。分かりやすくいえば、「神さながらに暮らしてくれ」ということです。「神さながらの生き方」を日本人の最高の到達点に置いて、これを「惟神の道(かんながらのみち)」と言っているわけです。「神さながらの道」ということです。
「ちょっと待ってくれよ」と。「人間は人間だから、神になってしまったら意味がないのではないか」と。では、人間として神のように暮らすとはどのように暮らすことなのか。どの時代でも、多くの日本人の疑問はそこに集まってくると思うのですね。そんなにいうなら、「神さながらに生きている人間を出して、見せてよ」と思うのです。
そこで、「はい、この人です」と言って登場しているのが天皇です。ですから、そういう意味でわれわれの文化というか、日本というものを決定づける最大の要点として、天皇という存在があるのです。今回の講義シリーズでずっと申し上げてきた縄文から続くダイナミックでエネルギッシュな創造活動。それから、鋭い感性と深い精神性というわれわれの一つの特性。つまり、それらを全部見せてくる存在こそが、具体的にいうと天皇ということで、われわれと、そして時代とともに生きている、そういう存在がわれわれにはあるということです。
そんな国は他にありますか。そこが驚異的だなと。もっといえば、そこがしっかり形づくられているのが日本なのだなと改めて気づき、すごいものだと思ったわけです。
●日本古来の精神性、エネルギーをビジネスにも生かしていく
それでは最後に今回のシリーズ講義のまとめをして終わりたいと思います。
今回のシリーズではまず、前回のシリーズ講義<日本の特性とは何か~「日本的」の本質>でお話しした地理的特性について少しお話ししました。地理的特性の森林山岳性、それからユーラシア大陸の東端にあるということを日本的に非常にうまく一本化してきているという、驚異的なあり方が見受けられるわけです。そこは、本当ならバラバラになってしまうはずです。それをうまく一本化して、長く続け、松明が絶えないようにしている。それこそずっとたいまつの火を燃やし続けているというすごさがあるのです。
その第一が産霊神で、ダイナミックでエネルギッシュな創造活動というものになってくるわけです。ここを第一義として、今後始まる第四次産業革命の最たるもの、例えば5Gなどをどう活用するかというときに、他の国では見受けられないような非常にうまい使い方、ちょっと考えられないような非常に感性豊かな、深い精神性を踏まえた使い方というものをできるのは、われわれぐらいのものだとお思いになったほうがいい。スティーブ・ジョブズではないですが、要するに深い精神性といえば日本しかないと考えるということです。彼は、深い精神性を感じさせるような商品をわれわれが作るには、日本の人と共作するしかないとずっと言っていたのです。
そういう意味合いも含めて、今こそ日本が独自に、あるいはさらにいろいろな国の人と一緒になって、日本の感性を生かして、非常に精神性に勝った、深い味わいのものやサービス、それからビジネスを創っていく必要があるのではないか。そのときに縄文から来ているこのエネルギー、アニマというものをぜひ忘れないでいただいきたい。それをシンボリックなものとしてバッと出せるように、そういうものを考えていくということが重要だと思います。
そうやって考えてみると、例えば日本のアニメーションがなぜ世界中で受け入れられるのかということも、よく分かるはずです。そういう部分が一番色濃く出ているのが、日本のアニメーションなのです。そういう意味で、日本に生まれてとても良かったと感じるばかりです。