●「40歳定年制」提唱の背景(1)経済の変化が非常に速くなっている
―― 皆様、こんにちは。本日は柳川範之先生と為末大先生に、「キャリア転換で人生を成功させる方法」についてお話しいただきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
柳川 よろしくお願いします。
為末 よろしくお願いします。
―― 今日のテーマはキャリア転換です。これまではどちらかというと、特に日本の大企業、役所などは、入社・入庁すると、ずっと定年まで勤め上げ、それでキャリアはおしまいということが多かった。しかし、これを途中で、40歳なり50歳なりでキャリアをどんどん転換できるような社会にしていく必要があるのではないかというのが、問題意識の1つとしてあります。アスリートの皆さんは、実際問題としてビジネスパーソンに比べると、競技人生が早めに終わる方が多いため、その後の人生をどうするかということに早めに直面します。そうした両面から、今後の日本の働き方、労働のあり方がどうあるべきかについて、お話をいただければと思っています。
柳川先生はずっと「40歳定年制」とおっしゃっていますけれど、なぜ、今、この日本で、40歳定年制なり、労働力を移動させることが必要なのかについて教えていただきますでしょうか。
柳川 大きく分けると、2つの全然違う方向を向いた動きが世の中で進んでいるため、「40歳でキャリアをもう1回考え直す必要がある」と申し上げてきました。
2つの大きな動きとは何かというと、1つは、デジタル化、AIといわれているように、経済全体の変化のスピードが非常に速くなっていることです。結果、うまくいっていた産業がずっとうまくいくとは限らなくなってしまった。30年前に就職ランキング1位だった会社が、残念ながら30年たつと1位ではなくなったり、あるいは衰退していく会社もあるというような状況が起きている。これからは30年とはいわず、もっと短いスパンで大きく変化してしまうでしょう。
特に新型コロナウイルスが蔓延し、感染者が増えている状態では、「ニューノーマル」といわれる新しい社会構造、経済構造を改めて構築していかなくてはなりません。感染がどういう形で終息するかは分かりませんが、いずれにしても、例えば5年くらい先に起こるだろうと思っていたことが、3カ月くらいで起きてしまったと言う人がいるほどです。特にデジタル関係のところは変化のスピードが速いため、その変化についていかなくてはいけません。変化についていくには、それぞれの人が自分のキャリア、必要な能力について絶えず振り返りながら、変革していく必要性が出てきている。それが大きな流れの1つです。
●「40歳定年制」提唱の背景(2)人生100時代で元気に働ける期間が長くなった
柳川 もう1つの大きな流れは、人生100時代といわれているように、寿命が長くなって、元気に働ける期間が長くなっていること。これはよいことでもありますが、55歳が定年だったときには、例えば20歳から働き始めたとしたら、働く期間は35年間でした。それが、20歳から75歳まで働くようになると、55年間もあるというように、倍とはいわないのですけど、1.5倍くらいは働く期間が長くなっているのです。
中にはずっと同じことを、同じようなやり方で続けていける産業、職種もあるでしょうけれど、変化のスピードが速くなると同時に、働く期間が長くなると、多くの産業、職種では、昔取った杵柄でずっと一生生きていけるわけではないということになります。
こうした2つの大きな理由から、働いている最中に少しずつキャリアを変えていく必要が出てきたのだろうと思います。
●経済の変化への対応を会社任せにできなくなった
柳川 加えて、これから考えなくてはいけない大きなポイントは、変化への対応を会社任せにできなくなったということです。これまでも、働いている中で、キャリアやスキルを変えていかなくてはいけないということはあったと思います。でも、いわゆる終身雇用を採用しているような会社、比較的従業員に対して手厚くケアをする会社では、それを社員教育としてやっていた。会社側が「君は今度、あっちの部署に行ってほしいから、こういう研修を受けてくれ」とやってくれていたのです。もちろん、そうではない会社もあったわけですけど、そういう会社が結構ありました。
ところが、今のような時代になってくると、会社の中でキャリアの面倒を全て見てくれるとは限らない。さらに、65歳くらいまで定年が延びたとしても、そこでハッピーリタイアメントで、働かなくて済む人はほとんどいないため、定年後の働き方を考えなくてはいけなくなりました。つまり、長期雇用の会社であっても、定年後、多くの人は別のところでも働く必要があるわけですが、それについては自分で考えてくださいとな...