●「一人の人間の正直な魂=真心」は、わりと変わらない
―― そういう部分で言うと、「今の自分」が、今後どんどん伸びていく可能性はあるにしても、自分にとっては「最高の自分」であるという前提で、「今の自分ができる最大のことを、どのようにしていくか」という発想に立ったほうがいい、ということになりますか。
執行 今の自分が最高というのは?
―― たとえば読書量で見た場合、執行先生と比べると明らかに自分は読んでいない、という人も多いと思います。それでも今までの自分の歴史を考えると、今の段階が一番読んでることは間違いない。
執行 そういうことですね。それだったら、そのとおり。そのときの実力。小学生なら小学生なりにやらなければダメです。
たとえば文学の読み込み能力とか、そういうわかりやすいことで言うと、私は小学校4年生のときにゲーテの『若きウェルテルの悩み』を読みました。すごく感動して、感動した文章には線を引きました。
その後、65、6歳の頃に、もう一度読み直しました。新しく本で買って、このときも感動した部分に線を引いた。小4で読んだ本も持っていたので試しに照合してみました。すると、97、8%感動した部分が一緒でした。
―― それはまた、すごいですね。
執行 だから小学生も同じことなのです。まだ人生を経験していないときに感動したものと、65歳になって、会社も創業し、いろいろな人生経験をしてきたあとに感動するものと、一人の人間の正直な魂は、わりと変わらないのです。
私はそれが「真心」といって、一番大切なものではないかと思います。「清純」というか、子供の頃に持っていた「人間としての初心」です。だから頭ではない、魂なのです。本で感動して線を引いたというのは、魂ですから。
―― 胸が動いた。
執行 感激したところです。その部分が95%以上一緒。そのくらい人間の魂は変わらないと確信を持ちました。だから何かの事情で変わるという人は、違うところを見ているのです。武士道でいうと、山本常朝が『葉隠』で一番大切にしているのも魂です。だから魂以外のところを見ると、『葉隠』もわからなくなります。
―― 処世訓、処世的な部分ですね。「こうやったら世過ぎ身過ぎがうまくいきます」みたいなところは、知恵の話になってしまうけれども……。
執行 ただ結果として、処世訓にもなりますけれども。私は『葉隠』を信奉して生きてきた結果、商売を何も知らずに始めて、ある程度成功し、36年伸びつづけています。それが経営に適応したということなのでしょう。
●人間関係を「スキル」でやろうと思う心がけの間違い
―― 先程出た「自分はこのレベルになったらやろう」などと言う人に多そうな傾向が、「スキル」に走るというものです。たとえば部下を持ったときに、「これは、何かのスキル本を読まなければいけない」と思って、「こういう声をかけてあげましょう」とか「こういうコーチングをしてあげましょう」といった、いろいろな手法を学ぶようなケースも多いと思います。このようにスキルを学ぶことについては、どう考えればいいでしょう。
執行 学ぶのはいいと思います。問題は出し方です。私が長年経験してきて思うのは、人間関係は真心以外は通らないということです。それが私の実感です。真実や真心以外は、極端に言うと犬猫でも通りません。犬だって、植物の花だって、友情を持ってる人と持ってない人はわかります。私はそう思います。ワンちゃんなんて、特にわかりやすい。
―― そうですね。
執行 まして人間をやです。
―― 自分の真心で当たっていく。たとえばよくある自己啓発的な本ですと、そのような古典的な本もありますが、「人の話を聞いてあげると話し上手と思われます」などといった、いろいろな法則が書いてあります。
執行 私はやったことありません。ただ、私の人生経験で言えば、人間関係を勉強する人はみんなダメになります。私が30代のときにアメリカから来た「何とかダイナミックス」とか「ライフダイナミックス」といったものが、いろいろ流行りました。そういうところに行った人をたくさん若い頃に知っていましたが、ほとんど出世していません。商売で成功した人もいない。人間関係を「技術(スキル)」でやろうと思う心がけがダメなのだと思います。人間はやはり、真心以外はダメ。これはどんな人間ともそうです。
―― はい。
執行 ただ、真心で当たれば好かれると言っているのではありません。そこを誤解されると困ります。私は99%嫌われていると言いましたが、ただ真心で当たれば、99%に嫌われても1%の合う人が出てくる。人生はもうそれで十分と言いたいのです。
―― 全部から好かれようと思うな、と。
執行 とんでもない話です。それは、ものすごい傲慢です。私は自分のことはよく...