●自らの中に「外圧」を取り入れて変化を起こす
―― それではまた、次の質問にまいります。
「日本型組織のタテ社会の同調圧力が日本に歯止めをかけていると思います。全員が無関心で、リスクを取れない組織の中で、立場を守り、既得権を守りたい一部の勢力を突破でき、生き延びることができる教養を学び、子どもたちに伝えるためにはどうしたらよいか、日々悩んでいます(先ほどの同調圧力をどう変えるかというところですね)。地域のコミュニティである町内会や自治体、PTAも多様化やネット社会のため、昔と比べてつながりが希薄になっていると思います。1人で生きることは難しい。どう社会性を育めるか、日々悩んでいます。何か指針があればご教示ください」
小宮山 「こうしたらうまくいくのではないか」という答えから考えるのがだんだん癖になってきているのですが、若い人は海外に出てもらうことではないかと私は思っています。今のような世界情勢で、戦争のようなものが多いと、若い人がだんだん外に出なくなりますが、やはり日本と違う社会を見ないといけないと思います。
東大にいる時、(総長の任期が)あと2年あったらやりたいと思っていたのは、海外の大学との連携です。(若い人は)アメリカが中心でいいと思いますが、ヨーロッパやアジアを見てくるのもいい。どこかへ行って、1単位は取ってくる。できれば1年はいること。今ではバーチャルなものでオープンキャンパスなどができますが、ともかく向こうに住んで、1単位でもいいから取ってくる。それを義務にすると、今おっしゃったような疑問がかなり変わってくるのではないかと思います。
―― 長谷川先生はどうですか。
長谷川 今の日本の社会のあり方というのが「リスクを取らず、安全」で、一度失敗したら駄目だから「絶対失敗しないように」ということが負の螺旋になっている。ものすごく居心地いいといえば居心地いいものの、発展性がなく、何も起こりそうにない。そういうツボにはまっているような気がします。
こういうことは一人の人間が変わっても変わるものではないから、社会を構成している学校も、会社も、いろいろなところのみんながそういう雰囲気になるのがいい。どこか(一箇所)だけ変わっても駄目で、みんな元の木阿弥になってしまう。そういうものを変えるのに一番いいのは外圧です。どこかに行くというのは、自らの中に「外圧」を取り入れるということだから、まったく違うところを見て、そこで苦労する。帰ってきて、「こういうこともあるんだよ」と言う人が増えたら、ガラッと変わるかもしれないですね。
小宮山 長谷川さんも海外へ行って変わったでしょう。
長谷川 もう180度変わりました。今の私があるのは、アフリカに行ったことと、ケンブリッジ大学とイェール大学(での経験)ですね。
小宮山 アフリカを見ているからね、長谷川先生は。
長谷川 電気なし、ガスなし、水道なし、2年半(笑)。
―― 2年半なのですね。
長谷川 全部(ずっと)いたわけではなく、1年と1年と半年(に分けて)ですが。
小宮山 私は若い時にカリフォルニアに1年いただけですが、その時に初めて海外というものを見ました。私の人生にとって、あの1年の大きさは凄まじいものです。違う社会がある。違う世界がある。そのことを実感することですよね。「Jim takes」の社会がある、と。
●「今、ここ」から外へ飛び出すための教養
小宮山 実は(似たような体験が)もう一度あります。カリフォルニアは今やワインの品質がよくなりましたが、当時は安ワインの製造場でした。
長谷川 そうでした。箱に入っているものですね(笑)。
小宮山 ガロン瓶に入っていたり、ね(笑)。それを郵便でニューヨークの友人に送ってやろうとしてポストオフィスに持っていくと、(最初は)「駄目だ」と言われる。そこで、「なぜ駄目なのか」と聞くと、「うん? あれ、駄目なリストに入っていないな」と言って、今度はOKしてくれて受け取る。これも結局、「Jim takes」と同じで、要するに自分で判断しているわけです。結局、彼は間違っていて、やはり送ってはいけないルールなのですが、ともかくあのようなことは今の日本では起こらない。そういう社会を本当に見た、ということです。
他にも(そうした体験は)本当に数えきれないほどあります。(当時)私は実験をするのに重いボンベを使いました。それをくくりつけるのにいい加減なやり方をしていたら、技術職員のホーマーさんという人が来て、普段は仲がいいのですが、「これはもっとちゃんとしたしばり方をしろ」と言うわけです。こちらは「分かった、分かった」と言いながら、実はやらないのですが、3度目になると「今度来て、ちゃんとしたものでしばっていなかったら実験をやめさせる」と言う。これは日本...