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政府が進める「働き方改革」本質はどこにあるのか?
政府が進める「働き方改革」の特徴
あなたはここ一カ月で、どのくらい残業しましたか?今、日本では過労死や長時間労働の問題を受けて、働き方を見直そうとする動きが強まっています。政府でも、「働き方改革実現会議」などでいくつかの取り組みが検討され始めています。今後、私たちはどのような働き方を目指していくべきなのでしょうか。東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授に聞きました。働き方改革の方法として現在議論されているのは、たとえば同一労働同一賃金や長時間労働の是正です。しかし、これらの方法にはメリットもあればデメリットもあるため、注意が必要です。同一労働同一賃金が導入されれば、非正規雇用者の待遇は改善され、公平性も確保できます。しかし、何を基準に「同一労働」とみなすかは、難しい場合も多いでしょう。また長時間労働を是正すれば、その分の勤務時間は減るので、業績が下がる可能性は高まります。
つまり、同一労働同一賃金にせよ長時間労働の是正にせよ、短期的には効果があっても、長期にわたって持続可能性のある解決策とはいえないのです。現在、政府で進められている議論も、結局は短期的な分配に重きを置いたものである、というのが柳川氏の見方です。
「働き方改革」の本質は、能力開発にある
問題は「パイをどう分け合うかではない。むしろ重要なのはパイそのものをどう大きくするか」だーー柳川氏が指摘する働き方改革の本質は、ここにあります。具体的には、中長期的に労働の生産性を高めていくことです。そのために必要なことは、労働者自身が、働くのに必要なスキルや知識、能力をもっと積極的に身につけることです。かつての日本企業は、こうした職業訓練や能力開発に熱心でしたが、国際的な競争激化でその余裕も失われてしまいました。
もう一つ、労働者の能力向上が重視される理由は、技術革新のスピードです。かつてないスピードで技術革新が進む現在、それまで身につけたスキルや知識は容易に「陳腐化」すると、柳川氏は言います。そのため、マイナーチェンジではなく大幅な能力開発こそが、労働者個々人に求められる時代になりつつあります。
つまり、中長期的な働き方改革の本質は、働きながら能力開発やスキルアップを図り、陳腐化に対処することなのです。
技術革新は、働き方をどう変えるか
では、技術革新は労働者にとって単なる重荷にすぎないのでしょうか。柳川氏の見方は違います。同氏によれば、技術革新こそ労働者の可能性を広げるものです。情報通信技術の飛躍的な進歩は、私たちの働き方をどう変えたでしょうか。一つ言えるのは、時間や空間にとらわれる必要がかなり小さくなったことです。インターネットを介したテレビ会議は当たり前のものとなり、タブレット一つ持ってカフェで仕事をする人も増えました。技術革新によって、遠隔地に住んでいる人や体力的な問題で通勤が困難な人でも、オフィスにいるのと同じような仕事ができる時代になったのです。
東京の仕事をするのに、もはや東京にいる必然性はありません。生活の拠点は地方に置きながら、東京の「同僚」と仕事をすることだって、十分に実現可能です。これは、単なる働き方改革を超えて、地域経済の活性化や地方創生にも大きなインパクトをもたらすでしょう。
副業・兼業があなたを成長させる
さらに技術革新によって時間や空間の拘束が減れば、副業や兼業をすることも可能です。自由な働き方は気晴らしにもなって生産性を向上させます。さらに副業や兼業は、転職やベンチャー立ち上げの抵抗感も減らします。いきなり職を変えるのはリスクが大きすぎるとしても、副業や兼業という形で新しい仕事に取り組めれば、転職やベンチャー立ち上げはスムーズに進むでしょう。自由な働き方は、新たなイノベーションにもつながるのです。「いかにパイを分け合うか」ではなく、「いかにパイを大きくするか」。そのために必要なのは、技術革新が持つ可能性を最大限に引き出しながら、私たちの働き方を、より能率的に、より自由に変えていくことです。働き方改革の実現は、大いなる可能性を秘めていると言えます。
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