テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2018.09.26

教養を深めるのに最適な方法とは?

 「教養を深める」という知的欲求を持つ人は多いはず。その教養を深める最も身近な方法として、まず思い浮かべるのは読書です。東京大学名誉教授であり歴史学者、そして無類の本好きでもある山内昌之氏も、教養を身につけるためには本を読む、しかも古典を読むのが一番だと語っています。

「古典」をしなやかに捉えて読書する

 「古典」というと、たとえば『源氏物語』や『徒然草』、あるいは中国の四書五経、古代ギリシャの哲学者プラトンの『国家』等々、いわゆる「大昔に書かれた本」をイメージされる方がほとんどでしょう。しかし、私たちに知の喜びをもたらしてくれる古典というのは何も遠い昔に書かれた本ばかりを指すのではない、と山内氏は言います。

 古典とは、私たちにものを考える手がかりを与えてくれたり、考え方を深めてくれる本。あるいは、人間の苦しみや喜び、悲しみといったものを解いてくれるような本。そのような本が広い意味の「古典」であり、人としての教養を深めてくれるものであり、そのような本であれば昭和時代に書かれたものであっても「古典」と言えるのではないか、と山内氏は考えています。このように聞くと、敷居の高かった古典がぐっと身近なものに感じられてきます。

読書は「楽しい」を入り口に

 さらに、山内氏は本に親しむためには「楽しい」を入り口にするとよい、とアドバイスします。「教養を深めるために読むべき50冊」などと「読むべき」を入り口にするのではなく、「楽しくてたまらない」という感覚を読書の入り口にするとよい、と言うのです。

 たとえば、古典中の古典として知られる古代ギリシャの詩人、ホメロスの叙事詩は当時のギリシャ人にとってはこの上もなく楽しい娯楽でした。楽しくて仕方ないので、競って読んで暗唱したのです。日本では菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)が、少女時代に書かれたばかりの『源氏物語』をやっと手に入れて、夢中で読んだ喜びを『更級日記』の中でつづっています。

 このように「楽しい」をきっかけにして、時代小説を片っ端から読んでいくうちに歴史書に読書の範囲を広げてもいいわけで、「楽しい」があってこそ、知的関心の可能性はいろいろ増えていくはずです。

日本は教養を深める手段に恵まれている

 ありがたいことに、日本ではさまざまな古典、名著を日本語で読むことができます。世界中の、あらゆる時代の書物が日本語に翻訳されていると言っても過言ではありません。また、古典、たとえば『源氏物語』も古語が難しければ何種類も出ている現代語訳で読むことができます。山内氏はこのような日本の読書環境を、「楽」しいと同時に他の国に比べて「楽」でもあるのだ、と指摘します。このような幸せを享受しない手はないでしょう。

 最近では、ユニークな本屋も増えています。喫茶店を併設したり、コーヒーを飲みながらソファーでくつろいで本を読めたり、雑貨や洋服と一緒に本を置いているお店もあります。テーマをしぼって扱っている専門書店も数々あるので、そのツボにはまると面白いでしょう。「教養を深めるために」と肩ひじをはらずに、「本を楽しむ」「本と一緒にいる時間を楽しむ」ことを目的に、本屋に出かけてみるのもよいですね。

 江戸時代に橘曙覧(たちばなあけみ)という歌人、国学者がおり、日々のささやかな喜びを表す「たのしみは~」で始まる歌を52首詠んでいます。その中で彼は「たのしみは人も訪(と)ひこず事もなく心をいれて書(ふみ)を見る時」等、本を読む楽しみをいくつも歌にしています。やはり、教養はしかめっ面で無理して身につけるのではなく、このように知的好奇心でわくわくと楽しみながら深めていきたいものです。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,600本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

アジア的成熟国家モデルづくりへ、日本が目指すべき道とは

日本の財政と金融問題の現状(4)日本が目指すべき成熟国家への道

機関投資家や経営者の生の声から日本の金融市場の問題点を見ていくと、リスクマネーを供給するための市場づくりや人材育成等の課題が浮き彫りになる。良質なスタートアップ企業を育てるにはどうすればいいのか。今こそアジア的...
収録日:2025/04/13
追加日:2025/07/01
木下康司
元財務事務次官
2

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

相互依存で平和は保てるか…EUの深化・拡大の難題とは

地政学入門 ヨーロッパ編(9)EUの深化・拡大とトルコの問題

国際政治の理論として国同士の経済交流、相互依存が安全保障、つまり平和を維持できると伝統的に考えられてきたが、今般の国際政治ではそれは必ずしも当てはまらないようだ。そこでEUの問題である。国の垣根を越えて世界国家に...
収録日:2025/02/28
追加日:2025/06/30
小原雅博
東京大学名誉教授
3

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

最悪のシナリオは?…しかしなぜ日本は報復すべきでないか

第2次トランプ政権の危険性と本質(8)反エリート主義と最悪のシナリオ

反エリート主義を基本線とするトランプ大統領は、金融政策の要であるFRBですらも敵対視し、圧力をかけている。このまま専門家軽視による経済政策が進めば、コロナ禍に匹敵する経済ショックが世界的に起こる可能性がある。最終話...
収録日:2025/04/07
追加日:2025/06/28
柿埜真吾
経済学者
4

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

江藤淳と加藤典洋――AI時代を生きる鍵は文芸評論家の仕事

AI時代に甦る文芸評論~江藤淳と加藤典洋(1)AIに代わられない仕事とは何か

昨今、生成AIに代表されるようにAIの進化が目覚ましく、「AIに代わられる仕事、代わられない仕事」といったテーマが巷で非常に話題となっている。では、AIに代わられない事とは何であろうか。そこで、『江藤淳と加藤典洋』(文...
収録日:2025/04/10
追加日:2025/06/25
與那覇潤
評論家
5

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

寝ないとよく食べる…睡眠不足が生活習慣病を招く理由

睡眠と健康~その驚きの影響(1)睡眠が担う5つのミッション

私たちに欠かせない「睡眠」。そのメカニズムや役割についていまだ謎も多いが、それでも近年は解明が進み、私たちの健康に大きく関与することが明らかになっている。まずは最新情報を盛り込んだ睡眠が果たす5つの役割を紹介し、...
収録日:2025/03/05
追加日:2025/06/05
西野精治
スタンフォード大学医学部精神科教授