テンミニッツ・アカデミー|有識者による1話10分のオンライン講義
会員登録 テンミニッツ・アカデミーとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2016.04.14

「保育園落ちた日本死ね」から考える女性活躍を阻む社会構造

匿名ブログから日本の政治を動かした待機児童問題

 2月半ばに書かれた1つの匿名ブログが、日本の政治を動かしました。「保育園落ちた日本死ね!!!」という破壊力のあるタイトルは、個人や政党を攻撃したものでなく、あくまでも日本の現状に絶望感を抱いた母親の叫びだったため、多くの子育て世代の共感を得ました。

 この動きを再度まとめると、こうなります。

(2/15)
はてな匿名ダイアリーに単発記事アップ

(2/17)
「ジャパン・タイムス」が記事に取り上げる。
TBS「ニュース23」が番組内で取り上げる。
Twitterで拡散

(2/20)
フジテレビ「とくだね!」が番組内で取り上げる

(2/26)
GLAYのTERUさんが「政府には本気で考えて欲しい問題です」とTwitter発言

(2/29)
民主党・山尾志桜里議員が衆院予算委員会上で安倍晋三首相に質問を提出。首相は「匿名である以上、実際起こっているか確認しようがない」と述べた一方で、「大変残念な苦しい思いをしている人がたくさんいることは承知している」と改善案を模索中の発言

(3/2)
安倍首相の「確認しようがない」発言、また席上で与党議員から「中身のある議論をしろ」「本人に会ったのか」などのヤジが飛ばされたことに対し、Twitter上で「#保育園落ちたの私だ」のハッシュタグを添えるアクションが始まる

(3/3)
ネット署名サイト<Change.org>上で「#保育園落ちたの私と私の仲間だ 」キャンペーン開始

(3/4~5)
Twitterの呼びかけに応え、約20人の市民が「保育園落ちたの私だ」などと書いたプラカードを持って国会前に立つ、無言の抗議行動を開始。5日午後には約40人に

(3/9)
<Change.org>で集めた署名28,459通が厚生労働大臣経由で安倍首相、民主党・山尾議員、「やめろよ、やめろ」「本人出てこいよ」「誰が言った」「出典は?出典 出典はないんだろ 出典は?」「うぜえ」と発言した与党議員に届けられる

(3/10)
自民党・平沢勝栄議員がテレビ朝日系「羽鳥慎一モーニングショー」に出演。ヤジを飛ばした件を謝罪しつつ、「本当に女性の方が書いた文書ですかね」の疑問も

(3/16)
日本共産党・田村智子議員による今後の見通しに対する質問を受け、塩崎恭久厚生労働大臣が「自治事務だが、厚労省が先頭を切ってやる」と発言。安倍首相「保育の受け皿拡大ペースは安倍政権で従来の2倍に」など、早急な改善を約束

 ということで、待機児童問題に関して、4月からの新年度には間に合わないようですが、数十年来の難問がドミノ倒しのように切り崩されていく様子は、ネット時代ならではのスピード感を感じさせました。

女性活用を阻んできたのは「M字型サイクル」

 これまで、女性活用がうまく運ばなかった原因について、千葉商科大学学長・島田晴雄氏は、「M字型サイクル」という要因を指摘しています。日本の女性は学校を卒業するとほぼ全員が就職するが、結婚して子どもができると辞めざるを得ない環境にある。再就職先は限られており、キャリアが継続・発展できないため、女性の能力が十分に生かされてこなかったというのです。

 そして、環境整備に向けて島田氏が提案しているのは、従来の幼稚園や保育園ではすくいきれないニーズに応える「子育て支援施設」の増設です。また、新しい施設の充実をはばんでいるのが、実は戦後から続く社会福祉法人の利権体質にある点にも、チクリと言及しています。

 そんな状況をブレイクスルーすることになったのが、横浜の林文子市長でした。就任3年目で「待機児童数ゼロ」を達成したとたん、噂を聞いて都内などから横浜へ移り住む家族が激増。「やれば、できる」の事実は、安倍首相を揺さぶりました。

 歴代内閣の経済政策に深くたずさわってきた島田氏の見るところ、「1億総活躍」「女性が活躍する社会」への安倍首相の熱意は本物のようですが、「日本死ね」を一過性の流行語にとどめるかどうかは、安倍首相の今後の実行力次第ということでしょう。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。 『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育の動物――生物学からみた子育ての基礎知識

ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(1)動物の配偶と子育てシステム

「ヒトは共同保育の動物だ」――核家族化が進み、子育ては両親あるいは母親が行うものだという認識が広がった現代社会で長谷川氏が提言するのは、ヒトという動物本来の子育て方法である「共同保育」について生物学的見地から見直...
収録日:2025/03/17
追加日:2025/08/31
長谷川眞理子
日本芸術文化振興会理事長 元総合研究大学院大学長
2

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

日本の弾道ミサイル開発禁止!?米ソとは異なる宇宙開拓の道

未来を知るための宇宙開発の歴史(7)米ソとは異なる日本の宇宙開発

日本は第二次大戦後に軍事飛行等の技術開発が止められていたため、宇宙開発において米ソとは全く違う道を歩むことになる。日本の宇宙開発はどのように技術を培い、発展していったのか。その独自の宇宙開拓の過程を解説する。(...
収録日:2024/11/14
追加日:2025/09/02
川口淳一郎
宇宙工学者 工学博士
3

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

天平期の天然痘で国民の3割が死亡?…大仏と崩れる律令制

「集権と分権」から考える日本の核心(3)中央集権と六国史の時代の終焉

現代流にいうと地政学的な危機感が日本を中央集権国家にしたわけだが、疫学的な危機によって、それは早い終焉を迎えた。一説によると、天平期の天然痘大流行で3割もの人口が減少したことも影響している。防人も班田収授も成り行...
収録日:2025/06/14
追加日:2025/09/01
片山杜秀
慶應義塾大学法学部教授 音楽評論家
4

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

世界は数学と音楽でできている…歴史が物語る密接な関係

数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家

数学も音楽も生きていることそのもの。そこに正解はなく、だれもがみんな数学者で音楽家である。これが中島さち子氏の持論だが、この考え方には古代ギリシア以来、西洋で発達したリベラルアーツが投影されている。この信念に基...
収録日:2025/04/16
追加日:2025/08/28
中島さち子
ジャズピアニスト 数学研究者 STEAM 教育者 メディアアーティスト
5

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

自由な多民族をモンゴルに統一したチンギス・ハーンの魅力

モンゴル帝国の世界史(2)チンギス・ハーンのカリスマ性

なぜモンゴルがあれほど大きな帝国を築くことができたのか。小さな部族出身のチンギス・ハーンは遊牧民の部族長たちに推されて、1206年にモンゴル帝国を建国する。その理由としていえるのは、チンギス・ハーンの圧倒的なカリス...
収録日:2022/10/05
追加日:2023/01/07
宮脇淳子
公益財団法人東洋文庫研究員