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今こそ学ぶべき学問「文化人類学」
文化人類学とは、「人類の社会・文化の側面を研究する学問」で、「生活様式・言語・習慣・ものの考え方などを比較研究し、人類共通の法則性を見い出そうとするもの」(大辞泉)です。つまり、人類の文化という大きなテーマを扱っているため、ジャンルを超えて様々な学問領域に影響を与えているのです。では私たちは、文化人類学から具体的に何を学べばいいのでしょうか。また、何を身につけることができるのでしょうか。
そんな疑問に応えてくれる本があります。その本とは、文化人類学を通して常識を疑う力や問題を発見する力、ホンモノの思考力を身につけることができると主張する斗鬼正一教授の著書『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」ーー人類最大の謎を探求する』(光文社)です。
斗鬼教授は、日本テレビ「世界一受けたい授業」や「月曜から夜ふかし」など多数メディアでも活躍しているので、ご存知の方も多いかもしれません。『頭が良くなる文化人類学』のサブタイトルにもあるように「人・社会・自分」という人類最大の謎の探求を目指し、熱帯ジャングルのヤップ島やコンクリートジャングルの香港、庭園都市ニュージーランドのクライストチャーチ、ソウル、また東京、京都、大阪など、日本と海外を股にかけ、日々フィールドワークを実践しています。
しかし、その「仕掛け」は、ほとんどの場合、「常識」や「当たり前」によって覆い隠されています。斗鬼教授は、文化人類学こそが、その私たちを知らぬ間にがんじがらめにする「常識」や「当たり前」を取り払い、「仕掛け」を理解する一助になると述べています。私たちは、具体的にどんな「常識」や「当たり前」に縛られているのか、本書から少し紹介したいと思います。
「一方は整然と区画され、作物がきちんと植えられた棚田、他方は雑多な植物が勝手に生えた荒れ地。どちらがきれいで、どちらが汚いだろう?」
これに対し、斗鬼教授は、常識として「勝手に生えている雑草は汚い。整然と区画された田畑の方がきれい」と捉えられることを指摘し、では「どちらは自然か?」とさらに問いかけます。この場合、勝手に生えた荒れ地のほうが「はるかに自然なはず」です。しかし、常識では「きれい」とは捉えられない。つまり、人は「みどりが大好き」と言っても、手を加えた自然と手付かずの自然を区別しているということではないでしょうか。
以上のような事例から、人間はありのままの自然を受け入れるのではなく、自然に対してそれぞれの民族がそれぞれに境界を設定し、分類を作り上げ、それを曖昧にするものは排除するという特性を持っていることがわかります。
斗鬼教授は、「人は自然も人工物も、ありのままに見ようとはせず、あくまで自ら作った分類に従って見ようとする。自ら作った文化というフィルターをかけ、そのフィルターを通してしか認識しないのだ」と書いています。つまり、そのフィルターが日常化するにつれて、フィルターの存在を忘れ、それを「常識」や「当たり前」と考えるようになるということです。
そして、飛躍しすぎかも知れませんが、そうなるとその結果、自文化中心主義に陥り、異文化をおかしい、間違っていると考えるようになってしまうのではないでしょうか。自文化中心主義というと、「アメリカファースト」を唱えるトランプ政権や閉塞化するグローバル社会を彷彿とさせます。そうした世界情勢のなかで、「常識」を疑う力は、昨今の激動の時代に対応できる「しなやかあたま」、時代が求める「発見力」「発想力」「独創力」をもたらしてくれると斗鬼教授は述べています。文化人類学はまさに今こそ学ぶべき学問といえるかもしれません。
そんな疑問に応えてくれる本があります。その本とは、文化人類学を通して常識を疑う力や問題を発見する力、ホンモノの思考力を身につけることができると主張する斗鬼正一教授の著書『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」ーー人類最大の謎を探求する』(光文社)です。
斗鬼教授は、日本テレビ「世界一受けたい授業」や「月曜から夜ふかし」など多数メディアでも活躍しているので、ご存知の方も多いかもしれません。『頭が良くなる文化人類学』のサブタイトルにもあるように「人・社会・自分」という人類最大の謎の探求を目指し、熱帯ジャングルのヤップ島やコンクリートジャングルの香港、庭園都市ニュージーランドのクライストチャーチ、ソウル、また東京、京都、大阪など、日本と海外を股にかけ、日々フィールドワークを実践しています。
世の中を動かす仕掛けを理解することはすごくおトク
私たちは、IT化やグローバル化によって生み出された激動する現代を生きることを余儀なくされています。また、昨今の世界情勢を見ていると、いつ経済危機やテロが起こっても不思議ではありません。そうは言っても、冷静に考えてみれば、「いつの世も、時代を動かしているのは、結局、人間。だから激動の現代を生き抜かなければならない私たちにとって、人、世の中を動かす仕掛けを理解していることはすごくおトクだ」と、斗鬼教授は著書の「おわりに」に書いています。しかし、その「仕掛け」は、ほとんどの場合、「常識」や「当たり前」によって覆い隠されています。斗鬼教授は、文化人類学こそが、その私たちを知らぬ間にがんじがらめにする「常識」や「当たり前」を取り払い、「仕掛け」を理解する一助になると述べています。私たちは、具体的にどんな「常識」や「当たり前」に縛られているのか、本書から少し紹介したいと思います。
実は「人は、自然が大嫌い」だった!?
人はよく「みどりはきれい」「みどりが大好き」と言います。そこで斗鬼教授は次の問いを投げかけます。「一方は整然と区画され、作物がきちんと植えられた棚田、他方は雑多な植物が勝手に生えた荒れ地。どちらがきれいで、どちらが汚いだろう?」
これに対し、斗鬼教授は、常識として「勝手に生えている雑草は汚い。整然と区画された田畑の方がきれい」と捉えられることを指摘し、では「どちらは自然か?」とさらに問いかけます。この場合、勝手に生えた荒れ地のほうが「はるかに自然なはず」です。しかし、常識では「きれい」とは捉えられない。つまり、人は「みどりが大好き」と言っても、手を加えた自然と手付かずの自然を区別しているということではないでしょうか。
「常識」を疑うことの重要性~文化人類学は今こそ学ぶべき学問
人の不思議はまだまだたくさんあります。多くの人が男女の性別や性差、父母の役割を当たり前だと思っていますが、世界には私たちから見ると男らしさと女らしさが逆の民族がいたり、女になったり男になったりできる民族や、女が父になる民族もいます。以上のような事例から、人間はありのままの自然を受け入れるのではなく、自然に対してそれぞれの民族がそれぞれに境界を設定し、分類を作り上げ、それを曖昧にするものは排除するという特性を持っていることがわかります。
斗鬼教授は、「人は自然も人工物も、ありのままに見ようとはせず、あくまで自ら作った分類に従って見ようとする。自ら作った文化というフィルターをかけ、そのフィルターを通してしか認識しないのだ」と書いています。つまり、そのフィルターが日常化するにつれて、フィルターの存在を忘れ、それを「常識」や「当たり前」と考えるようになるということです。
そして、飛躍しすぎかも知れませんが、そうなるとその結果、自文化中心主義に陥り、異文化をおかしい、間違っていると考えるようになってしまうのではないでしょうか。自文化中心主義というと、「アメリカファースト」を唱えるトランプ政権や閉塞化するグローバル社会を彷彿とさせます。そうした世界情勢のなかで、「常識」を疑う力は、昨今の激動の時代に対応できる「しなやかあたま」、時代が求める「発見力」「発想力」「独創力」をもたらしてくれると斗鬼教授は述べています。文化人類学はまさに今こそ学ぶべき学問といえるかもしれません。
<参考文献>
『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」――人類最大の謎を探求する』(斗鬼正一著、光文社)
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038069
<関連サイト>
斗鬼正一文化人類学研究室
http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tokim/
『頭が良くなる文化人類学 「人・社会・自分」――人類最大の謎を探求する』(斗鬼正一著、光文社)
http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334038069
<関連サイト>
斗鬼正一文化人類学研究室
http://www1.edogawa-u.ac.jp/~tokim/
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