テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

シンプルな手順こそ、仕事の加速力を倍加する

重職心得箇条~管理職は何をなすべきか(13)「実政」と「虚政」

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
『重職心得箇条』第14条には、「実政」と「虚政」という言葉が出てくる。毎日忙しく働いているようでも、無駄な作業を取ってつけたり、無意味な指示に終始していることはないだろうか。東洋思想研究者・田口佳史氏に解説いただきつつ、日常を振り返ってみよう(全15話中第13話)。
時間:07:30
収録日:2016/02/03
追加日:2016/06/28
タグ:
≪全文≫

●「拵え事」にエネルギーを費やしていないか


 今回は第14条を読んでいきます。

 「政事と云へば、拵(こしら)へ事繕い事をする様にのみなるなり。何事も自然の顕れたる儘にて参るを実政と云ふべし。役人の仕組事皆虚政也。老臣など此風を始むべからず。大抵常事は成べき丈は簡易にすべし。手数を省く事肝要なり。」

 「政事と云へば」と始まりますが、何回も申し上げているように「経営は」と考えていただいていいです。その経営が、「拵へ事繕い事をする様にのみなる」とは、よく読んでいますね。佐藤一斎という人はやはりそういう経験が非常に豊富だったのでしょう。

 「こしらえ事」とは、わざとらしい、取ってつけたようなこと、「繕い仕事」の方は、その場しのぎです。そういうことばかりになりがちで、一日を振り返って考えてみると、それらに終始しがちである。仕事そのものに率直に向かわず、何かの前提となるべき「こしらえ事」を行い、一時逃れの指示を出して一日が終わっていくことになりがちだということです。

 仕事にダイレクトに向かわないところでは、非常にエネルギーが必要です。そして、上に立つ人がこういう状態だと、下にはそれが倍加されてどんどん負荷がかかっていきます。悪い意味で言う「根回し」に力を消費して、社内を説得することに疲れてしまう。そのため、本来説得しなければいけない社会までは、手がまわらなくなる。私の見たところでは、ほとんどの社員のエネルギーが社内で落とされているような会社もあります。そのようなものはなるべく切っていけということです。


●「実政」を忘れた「役人の仕組事」になっていないか


 「何事も自然の顕れたる儘にて参るを実政と云ふべし」。嘘偽りのない、本当に心の底から出てくる政治をやっているのが「実政」です。見栄や外聞、見てくれなどのようなものは一切ありません。「あるべきよう」をストレートに皆が語り、皆がそれを引き受ける。そういうものでなければ、組織はなかなか動かないということです。

 「役人の仕組事皆虚政也」。「実政」ではなく、偽りの政治になっているということです。これは結局、他人、特に上司の評価が第一義にある弊害を言っているのです。例えば政治で言えば、「国民のためになるか」ではなく、一から十まで万事「どういう評価をいただくか」に終始している。そういう人のことを、ここでは仮に「役人」と呼んでいるわけです。

 本来そういう人は、「これは本当に国民のためになるのか」「顧客のためになるのか」「社員のためになるのか」と、徹底的に自己を問わなければいけません。それなのに、「上司の覚えはめでたいか」と、そればかりを考えてやっているのでは、無駄なことばかりを考えているわけなので、やることも無駄ばかりになります。そうして、口では「忙しい、忙しい」と言っている。

 そういうものが虚政ですから、当然実績は上がらない。成績が上がらないのですから、こういう人ばかりいたのでは、会社は駄目になってしまいます。ですから、こういうのはよくないと言われているのです。


●上司は五つの単語しか指示に使わない会社もある


 「老臣など此風を始むべからず」。つまり、ベテランになればなるほど、そういう風情がある。しかし、ベテランであればあるほど自分を正し、もっと虚心坦懐になってほしい。「老練」などと言われるようになると、とかく手練手管ばかりで対処しようと思いますが、やはり大本に「真心」がなければ駄目です。真心で対処することが重要なのだということです。

 「大抵常事は成べき丈は簡易にすべき」。ここでは「簡易」と言っていますが、何事につけ全てシンプル、簡潔にしなければならない。社内の手はずなどをできる限り簡易にするのは、エネルギーを全部外に出させないといけないからです。そのための注意点が「簡易にすべき」なのです。

 私が指導した会社の中には、上位に立つ者は五つしか指示を出さないようにしようといって、実践している会社があります。五つとは何かというと、「イエス、ノー、ゴー、ストップ、ウェイト」。この五つの単語しか言ってはいけないことにした会社がありまして、もう実に簡単極まります。

 これだけ言えればいいわけですから、外国人でも表現に苦しまず、上司が務まることになります。実際に、その会社ではどんどん外国人の管理職が増えています。そういう会社もあるぐらいですから、ここで言われているように、なるだけ簡易にしなければいけません。

 「手数を省く事肝要なり」。手数を省くことを大切な仕事として、一つしっかりやっていただきたいということを、この第14条では強調しています。
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。