●日本人の価値観は何によって形成されているのか
―― 今回の講演会でのお話に基づいて、これから皆さまからいただいた質問に、両先生にお答えいただきたいと思います。まず1つ目の質問です。
「わが国についていえば、民主主義は別として他国と比較すると道徳については、まだ悲観するような状況にはないように思います。宗教そのものが色濃く社会に影響を与えていないなかで、日本人の価値観は何によって形成されているのでしょうか」
これについて、いかがでしょうか。
中島 ご質問ありがとうございます。道徳と宗教、そして民主主義という言葉が出てきました。道徳と宗教は非常に大きな言葉なので、このご質問に答えるのはなかなか難しいなと思っています。しかし、日本に宗教性がないというのは、私は少し行きすぎた意見かなと思います。20世紀前半までの日本を外から見ていた人たちは、「なんて宗教的な国だろう」と思っていたわけです。その後、少し極端なことが生じていたので、そうした宗教性をなんとか見直していくという発想で戦後はスタートしました。よって、「日本は無宗教だよね」という考えが強く出てきたのは、戦後になってからです。
ですから、日本のなかには宗教がある程度残っていると私は考えています。だからこそ、変な仕方でそれが噴出することがあります。かつてオウム真理教に関することはその典型的な事件でした。あのようなカルト的なものに形を変えて、宗教が現れることはありますので、それには注意をしなければいけないと思います。
●宗教と道徳は切り離して論じることができない
中島 道徳に関しては、今回の講演会で「正しい人」の話をしたので、無縁だったということはないと思いますが、ただし、言葉として道徳が強く登場してきた背景には、ヨーロッパにおいてキリスト教が退いていった後に規範をどうしようかという問題があったと思います。世俗化が進んだので、宗教で全てを意味づけることは難しくなる。そこで、神さまに頼らずに、人間としてなんとかしよう、ということになり、そこで出てきたのが道徳だったと思うのです。ですから、ある意味で道徳と宗教はセットです。宗教と道徳は、切り離して論じることができないと思います。
ご質問では、「日本では道徳はまだマシだ」というご意見がありました。しかし、そうした比較をしてもしょうがないかな、と私は思い...