●トランプ政権4高官演説に見る「新冷戦」の影
小原 前回お伝えしましたポンペオ国務長官の演説は、この資料に書いたシリーズで行われた4番目の演説でした。
―― はい。
小原 彼自身は、先ほど言ったように、ニクソン大統領以来の関与政策をやめるということを、外交の責任者である国務長官として宣言したわけです。この演説はニクソン大統領記念図書館で行われましたが、まさにそうしたことを頭に置きながら、この場所を選んだということです。
最初の大統領補佐官から始まって、FBI長官、司法長官など、みんなが一緒になって、「ターゲットは中国共産党」だと言っています。つまり、中国という国家というよりも共産党というものをターゲットにして、4氏が演説をしているわけです。一つのポイントとして頭においていただきたいのは、まさにイデオロギーがそこに出てきているということです。
これがまず、「新冷戦」だと言われる理由の一つだと思います。つまり、冷戦というのは一体何だったかというと、いろいろな特徴があるわけですが、一つの特徴がイデオロギー闘争です。今まで貿易戦争など、いろいろなことがあったけれど、米中では必ずしもそこまでいっていませんでした。ところが今、新冷戦が出てきはじめました。「新冷戦は本当に新冷戦なのか」という議論が今までありましたが、新冷戦の影がここにもう出てきているということです。
―― ポンペオ氏などは、言ってみれば完全に「敵認定」のような、かなり激しい言葉を使っていますよね。
小原 そうですね。
●米中間の勢力均衡の鍵を握るのはシーレーン
小原 米中間の問題でもう一つ気をつけないといけないのは地政学であり、パワーシフトやパワーバランスともいわれる「勢力均衡」です。この地図では太平洋や東アジアを軸に、中国がどのような姿勢を押し出しているか、それに対してアメリカがどう食い止めようとしているかを図示しました。
この資料を見る一つのポイントは、「第1列島線」「第2列島線」「第3列島線」という概念です。
1950年、当時の国務長官だったアチソン氏は、アメリカが責任を持つ防衛ラインとして、フィリピン-沖縄-日本-アリューシャン列島を結ぶ「アチソンライン」を表明しました。ここに韓国が入っていなかったため、当時の北朝鮮指導者だった金日成委員が「われわれが南を攻めてもアメリカは介入してこないだろう」と判断して北の侵攻による朝鮮戦争につながったということで、後世から批判を受けます。
歴史的にそのような経緯を持つのが、「第1列島線」のラインです。見ると分かるように、ここにはアメリカの同盟国・パートナー国が並んでいます。中国はここを突破したい、あるいはこの線の中を内海として、自分たちが押さえたいというところがあるわけです。
この周辺で最も緊張の高まっているのが、台湾海峡と南シナ海です。まさにこの南シナ海でアメリカが航行の自由作戦を行い、台湾海峡では台湾に対してアメリカが多様な軍事支援を含めてサポートする中、対立が深まっています。中国はここをなんとか内海にして、アメリカの関与を退け、その存在を遠ざけたい。それにより、できれば第2列島線や第3列島線にまで持っていきたいわけです。
―― 第3列島線になると、ハワイまで退いてしまうということですね。
小原 そうなのです。ちょうどハワイです。資料に少し書いてありますが、2007年に中国軍の幹部がアメリカの太平洋艦隊司令官に対して、「太平洋を二分割しようではないか」と言った。言われた側は冗談かと思ったというやり取りがあったことが米議会でも証言されていますから、実際にあった話であり、中国側からすればそこまで考えていたということです。
●太平洋分割案を抱く中国、生存の危機に瀕する日本
小原 近年では習近平国家主席がオバマ大統領に対して「新型大国関係」を提案しました。自分が訪米した時にもオバマ氏が訪中した時にも言っていまして、二度目にはより広げた言い方をしています。「太平洋には二つの大国を受け入れるだけの広さがある」と習近平国家主席は言い、「二つに分けて統治しよう」というビジョンを頭の中に抱き続けているということです。そこから、これに対する力が出てくるわけです。
―― だけど日本人からすると、例えば第2列島線のレベルでも、完全に日本の領空・領海に入っているわけですよね。中に入っているということ、ここに中国が出てくることは、日本にとって何を意味するのですか。
小原 だから日本からすると、まず一番大事なのがシーレーンなのです。日本が中東から輸入している大量の石油はホルムズ海峡やマラッカ海峡、南シナ海などのいわゆる「チョークポイ...