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脳腫瘍の治療薬の効果を高める免疫チェックポイント阻害剤

ナノテクノロジーでがんに挑む(4)脳腫瘍治療のためのDDS活用<前編>

片岡一則
ナノ医療イノベーションセンター センター長/東京大学名誉教授
概要・テキスト
脳腫瘍に対するドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いた具体的な3つのアプローチのうち、2つを解説する。1:免疫チェックポイント阻害剤との併用、2:血管内皮細胞の通過を促進するリガンド分子の装着である。どちらも、脳腫瘍の治療に高い効果を発揮することが分かっている。(全8話中第4話)
時間:07:42
収録日:2021/05/12
追加日:2022/03/19
キーワード:
≪全文≫

●免疫チェックポイント阻害剤との併用


 最初に免疫チェックポイント阻害剤との併用についてお話しします。

 脳腫瘍は薬が集まりにくいのですが、全くいかないわけではありません。ですから、少ない量の薬でもうまく効果が出るように免疫チェックポイント阻害剤と一緒に使います。

 では、どれが良いのかというと、免疫チェックポイント阻害剤である「オプジーボ」がすごく有名です。これはどういうものかというと、抗体です。がん細胞をやっつける細胞は活性化したT細胞です。この活性化したT細胞ががん細胞の抗原を認識して、結合して、さあやっつけようというときに、がん細胞は自分の表面にPD-L1というタンパク質を発動します。そうすると、鍵と鍵穴のように、PD-L1が活性化したT細胞にあるPD-1にくっついて、ブレーキになってしまいます。免疫チェックポイント阻害剤という抗体はこの間に割って入って、PD-1とPD-L1の結合を阻害します。それによって活性化したT細胞はがん細胞を攻撃することができます。これは素晴らしい発見で、これによって本庶佑先生がノーベル賞を取られました。

 ただ残念なことに、この免疫チェックポイント阻害剤で効果がある人は、がんの患者さん全体の1割から3割です。そして、脳腫瘍には効かないという問題がありました。


 どうして脳腫瘍だけ効かないのでしょうか。その一つの理由として、脳腫瘍は「冷たいがん」といわれていて、今お話ししたようにがん組織をキラーT細胞が攻撃するには、キラーT細胞ががんに集まってこなければいけません。この集める役割をするのは何かというと、成熟した樹状細胞という細胞です。しかし、樹状細胞が未成熟な状態だと、活性化したT細胞をリクルートすることができません。

 ではどうしたらいいのでしょうか。面白いことに、ある種の抗がん剤でがん細胞を殺すと、このがん細胞から、CRTやHMGB1、ATPといった物質が放出されます。こうやって放出された物質が未成熟の樹状細胞を成熟した形に変えて、脳腫瘍を温かい腫瘍、ホットな腫瘍に変えます。そうすると、T細胞がリクルートされてきて、がんがやっつけられます。

 どんな抗がん剤でもこういうことが起きるわけではなく、実はドキシル...
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