●「多角経営」をどのように考えるか
―― 最近、特に高度経済成長以降、企業によってはジャンルをいろいろ増やしていくケースがあります。例えばホンダは、バイクから入り、四輪車に行った。今は飛行機もやりだし、一定の成功を収めています。
理想の部分で言えば本田宗一郎さんの夢に向かって、つまり、モビリティでいかに人間の自由を発揮するかというところに向かっていると思います。ただし利益の大部分は、今もバイクが稼ぎ出しています。それを飛行機事業に使い、ほかの航空機メーカーではできない工夫をするといった形で、どんどん展開していく、という考え方があります。そういうあり方は、企業としてはだんだんと詰まってくると、どんどん難しくなってくるのは間違いないと思いますが、そういう考え方はどう思われますか。
執行 それも頭打ちがありますね。だから、多角経営に乗り出した会社は全部ダメになるでしょう。
―― それも多いですね。
執行 三井越後屋が300年成功したのは、絶対にずれなかったからです。両替と呉服。これ以外やらなかった。どんなに儲かっても、ほかの商売はやらない。それも全部「わきまえ」という道徳で、それが昔は「足るを知る」というものに入っていたのです。
これは日本だけでなくドイツもフランスも、昔続いた商売は全部同じ、「足るを知る」です。文学にもたくさん書かれています。
なぜ「足るを知る」か。もう一回言うと、物質には限界があるからです。われわれがどんなに頑張っても、人間には平均身長があって、ここから大きくはなれない。子どもの頃、「たくさん食べて早く大きくなれよ」と親に言われますが、それは二十歳までの話です。二十歳を過ぎたら、いくら食べても大きくならない。それがわからなければダメということです。
でも人間には成長する部分もあり、それが心です。心は死ぬまで無限に成長します。その無限成長の概念をアメリカは独立宣言のときに導入した。(もっというと)“神”がいての話だった無限成長の概念を経済にも導入したのです。これは導入した頃は素晴らしい経済理論で、これにより英米は大成功した。(ただし)その大成功も、限界はあるということです。
田村 先ほど(のキリンビール)の話も、量の制限はあるけれども魂は無限成長するという実例です。だから振り返るとこの4大疾病は、結果のような気がします。会社の会...