●ダントツ最下位だから自由になれた
執行 だから、数値目標そのものがダメなのです。
田村 そうです。その理由の一つは、分析です。(キリンビールの)高知支店にいたとき、あまりに高知支店の成績が悪いので本社から分析チームが送られてきたのです。でも分析すればするほど、わからなくなったのです。
お客さんの心を細かく見てもわからない。わかるのは売れない理由で、これはどうにもならない理由が多いのです。「高知県は人口が減っている」「ライバルメーカーの味に県民の志向が合っている」といったもので、どうしようもないことばかり出てくるのです。
肝心な「どうやったら売上げが上がるか」は分析からは全く出てこない。大事なのは人の心を分析するのではなく、逆に「人の心の流れを市場全体の流れとして捉える」ことです。この「全体として捉える」は、やはり(分析でなく)現場の感覚なのです。
現場で行動して、現場を見て、また行動していく。体の感覚で、全体としてつかむ。これによって市場の流れがわかるのです。ただ、仮説のためにデータは必要です。でも分析から正解は絶対に出てきません。
執行 そうですね。分析はいくらしてもダメです。
田村 はい、きりがない。
執行 だから高知支店でやったことは、商売の根本に立ち返っただけなのです。地域密着です。
田村 「お客さんのために」と。喜んでくれたら売れます。
執行 そういうことです。でも、その売上げの数字は(たかが)知れている。「どこまで行ったら終わり」といった上限はある。人口の問題もある。そこからは同じような数字を繰り返していれば、(ただ)仕事を一生懸命していることになる。
田村 ただ、(高知支店は)そうはなりませんでした。これは理念の実現に向かったからです。理念の実現とは「高知県民全員を幸せにする」ですから、人口が減っても、総量が減っても関係ないのです。
「全ての人を幸せにする」とは、数字で置き換えると100パーセントです。これは絶対に不可能です。いろんな人がいるし、ライバルメーカーだって頑張っています。不可能なうえに、制約が非常にあります。予算も決められているし、大事な広告は本社で作っている。現場でできる要素はすごく狭い。
でも、それがよかった。そういった制約を乗り越えようとなり、そこから自由や自立が生まれてきます。 目指すのは...