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予算、人員…制約を乗り越えるところから自由は出てくる

日本企業の病巣を斬る(2)「商売の原点」に戻る

対談 | 執行草舟田村潤
情報・テキスト
「なぜ売れないか」をデータから分析しても正解は出てこない――かつてキリンビール高知支店はこの問題に直面していた。必要なのは、人の心の流れを市場全体の流れとして捉えることで、「お客さんのため」に行動することだった。そこで高知支店は「県民全員の幸せ」を目標にして成功する。そもそも現実的に全員を幸せにするのは不可能だが、不可能だからこそ自由が生まれた。自由は制約を乗り越えようとするところから出てくる。予算や人員に制約があるからこそ、それを工夫で乗り越えようとして、自由を手に入れるのだ。そこにおいて求められるのは、「商売の原点」に戻り、「会社の使命は何か」を問うことだ。(全12話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:09:54
収録日:2023/10/18
追加日:2023/12/08
カテゴリー:
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≪全文≫

●ダントツ最下位だから自由になれた


執行 だから、数値目標そのものがダメなのです。

田村 そうです。その理由の一つは、分析です。(キリンビールの)高知支店にいたとき、あまりに高知支店の成績が悪いので本社から分析チームが送られてきたのです。でも分析すればするほど、わからなくなったのです。

 お客さんの心を細かく見てもわからない。わかるのは売れない理由で、これはどうにもならない理由が多いのです。「高知県は人口が減っている」「ライバルメーカーの味に県民の志向が合っている」といったもので、どうしようもないことばかり出てくるのです。

 肝心な「どうやったら売上げが上がるか」は分析からは全く出てこない。大事なのは人の心を分析するのではなく、逆に「人の心の流れを市場全体の流れとして捉える」ことです。この「全体として捉える」は、やはり(分析でなく)現場の感覚なのです。

 現場で行動して、現場を見て、また行動していく。体の感覚で、全体としてつかむ。これによって市場の流れがわかるのです。ただ、仮説のためにデータは必要です。でも分析から正解は絶対に出てきません。

執行 そうですね。分析はいくらしてもダメです。

田村 はい、きりがない。

執行 だから高知支店でやったことは、商売の根本に立ち返っただけなのです。地域密着です。

田村 「お客さんのために」と。喜んでくれたら売れます。

執行 そういうことです。でも、その売上げの数字は(たかが)知れている。「どこまで行ったら終わり」といった上限はある。人口の問題もある。そこからは同じような数字を繰り返していれば、(ただ)仕事を一生懸命していることになる。

田村 ただ、(高知支店は)そうはなりませんでした。これは理念の実現に向かったからです。理念の実現とは「高知県民全員を幸せにする」ですから、人口が減っても、総量が減っても関係ないのです。

 「全ての人を幸せにする」とは、数字で置き換えると100パーセントです。これは絶対に不可能です。いろんな人がいるし、ライバルメーカーだって頑張っています。不可能なうえに、制約が非常にあります。予算も決められているし、大事な広告は本社で作っている。現場でできる要素はすごく狭い。

 でも、それがよかった。そういった制約を乗り越えようとなり、そこから自由や自立が生まれてきます。 目指すのは「県民全員を幸せにする」という不可能。不可能に常に向かう集団だから自由になれた。不可能とは「何をやってもいい」ということでもありますから。

―― 「制約があると自由になる」は少しわかりづらいところですが、(どういうことでしょうか)。

田村 予算があります。人も決められています。でも全ての人を幸せにする。これをどうするか。お金は絶対にかかりますから、いかに少ないお金で、より多くの人に喜んでもらうかを考える。ここで工夫が起きます。これが自由なのです。

―― 工夫が自由になると。

田村 工夫しないと達成できないから、いろいろ工夫して、やってみる。10やったら1つや2つは当たるでしょう。それを翌週、徹底してやると、またいろいろなことがわかってくる。この繰り返しです。

 これはすごく自由なのです。制約を乗り越えるところから自由は出てくる。「お金をいくらでも使っていい。人もいくらでもやるから」と言われたら、何も自由なんて起きていないでしょう。乗り越えるために制約は絶対に要るのです。企業はそういう点では、ものすごく恵まれています。制約だらけですから。

 制約を乗り越えるところで工夫や創意が出てきて、そこで自由を感じる。「自分はここまでできる」と。これを共有化してやってみる。やるとまた行動によって何かを感じる。それがあるとき言葉になるのです。「あ、そういうことなのか」と。「じゃあ、やってみよう」となって、またやる。

 この繰り返しで1年、2年、3年とやっていると判断力がついてきます。無駄なことをやらなくなるから効率化もされます。だから、「生産性が悪い」「残業時間を減らせ」ということには、こういうことをやればいいわけです。

 オーバープランニングやオーバーアナリシスは、本社から山のように来ます。高知支店は60いくつの支店の中で、私が行ったときは最下位クラスでした。それが翌年、最下位になった。その翌年はダントツ最下位になった。そうすると、ダントツ最下位より下はないから、わりと腹を括れるのです。


●経済が飽和状態のときの乗り越え方は「商売の原点」に戻ること


執行 高知支店はオーバーアナリシスとオーバープランニングにならずに済んだ。要は売れていなかったからです。オーバーアナリシスやオーバープランニングの問題は、経済が成長していて、高知支店なら(仮に)売れている状態で、そこでも「も...
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