社会人向け教養サービス 『テンミニッツ・アカデミー』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
激動の時代に求められる「企業戦略」とは?
激動の時代が求める企業戦略
日々、新しい技術、サービスが開発され、異業種参入も当たり前の現代。安定から激動の時代となり、企業の経営戦略には「ダイナミック・ケイパビリティ」の必要性が説かれています。かのスティーブ・ジョブズも「リーダーシップとはビジョンを示すこと」と言ったそうですが、これからの戦略的経営者は、変化に対応するためのイノベーションを組織ぐるみでまとまって起こしていくために、ビジョンを示していかなければなりません。そのリーダーシップに求められるのが、ダイナミック・ケイパビリティなのです。
「ケイパビリティ」を「包丁とフグ」で説明する
この経営戦略は、分かりやすく言い換えれば「変える力、変わる力」ということなのですが、単なるケイパビリティと、どのような違いがあるのでしょう。そもそも、ケイパビリティとはどのような概念なのか。慶應義塾大学商学部教授・谷口和弘氏が、「包丁とフグ」を例に分かりやすく解説してくれました。ケイパビリティとは、持っているリソースを価値のある活動に変換するために必要な能力やプロセス、知識のこと。例えば、包丁とフグだけがあっても、そのままでは誰もフグの味、その美味しさを知ることはできません。いい道具を揃えたら、きちんと手入れをする。毒のあるフグを適切に処理、加工する方法、さらには、フグ刺しにしたり唐揚げ、鍋にしたりとさまざまな調理法を駆使する。こうした幾多の技術や知識、プロセス、つまりそうしたケイパビリティをもって、初めて「フグは美味い」と人々をうならせるだけの価値が生まれるわけです。
ケイパビリティには低次と高次の二種類がある
次にケイパビリティとの違いについてですが、ケイパビリティには、低次と高次の二種類があります。低次のケイパビリティとは、何らかのオペレーションをするのに必要なもの。どの企業でもできそうなこと、業界で共通して持っている能力、知識ということになります。これに対して、高次のケイパビリティとは、問題に気づく・問題解決のためにビジネスモデルや仕組みをつくる・環境の変化に応じてビジネスモデル、仕組みを変化させる、というように、いくつものケイパビリティを緻密かつ大胆に組み換えていく能力のこと。この高次のケイパビリティをダイナミック・ケイパビリティと位置付けているのです。
どんなに優れたリソースがあっても、それを活かしていなかったり、他社の優良事例を真似てベンチマーキングに終始するだけでは、宝の持ち腐れで終わってしまいます。リソースを自社ならではの価値創造に高め、時代や環境の変化に合わせて独自の価値を維持し続けるようにしていくのがポイントなのです。先述のフグの話でいえば、極上のフグが手に入ったら、その素材の良さに頼るだけでなく、道具、加工技術、調理法、魅せ方、あらゆる方法の組み合わせで、フグの価値を最大限に高める、そうした能力、あるいはそうした料理を提供する最高の店であり続ける能力ということになります。
戦略の柱となるシグネチャ・プロセス
経営戦略に基づいた実際の行動に落とし込んでいく際に重要なのが、「シグネチャ・プロセス」です。シグネチャ・プロセスとは一言で表せば、「会社の歴史である」と谷口氏は言います。どういう経緯で会社が作られ、発展してきたのか。創業者はどのようなビジョンで会社を作りあげたのか、さまざまな「ストーリー」で紡がれてきた会社の「ヒストリー」を認識し、会社の柱とする、このシグネチャ・プロセスが非常に重要なのです。会社の歴史を知り、弱点や強みを把握してこそ独自の価値創造が可能になるわけです。
激動の時代の指針となるダイナミック・ケイパビリティという考え方の芯に、シグネチャ・プロセスのような「温故知新」的な過程が息づいているというのも、とても興味深いことですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
雑学から一段上の「大人の教養」はいかがですか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,500本以上。
『テンミニッツ・アカデミー』 で人気の教養講義をご紹介します。
百年後の日本人のために、共に玉砕する仲間たちのために
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(4)百年後の日本人のために
硫黄島の戦いでの奇跡的な物語を深く探究したノンフィクション『大統領に告ぐ』。著者の門田隆将氏は、「読者の皆さんには、その場に身を置いて読んでほしい」と語る。硫黄島の洞窟の中で、自分が死ぬ意味を考えていた日本人将...
収録日:2025-07-09
追加日:2025/08/15
日本は集権的か分権的か?明治以来の国家の仕組みに迫る
「集権と分権」から考える日本の核心(1)日本の国家モデルと公の概念
今も明治政府による国家モデルが生きている現代社会では、日本は中央集権の国と捉えられがちだが、歴史を振り返ればどうだったのかを「集権と分権」という切り口から考えてみるのが本講義の趣旨である。7世紀に起こった「大化の...
収録日:2025-06-14
追加日:2025/08/18
原発建設には10年以上も…小型モジュール炉の可能性と課題
日本のエネルギー政策大転換は可能か?(2)世界のエネルギーと日本の原発事情
再生可能エネルギーのシェアが世界的に圧倒的な伸びを見せる中、第7次エネルギー基本計画において原子力発電を最大限活用する方針を示した日本政府だが、それはどこまで現実的なのか。国際エネルギー機関が発表した今後のエネル...
収録日:2025-04-04
追加日:2025/08/17
全ては経済?…米中対立の現状とリスクが高まる台湾危機
トランプ政権と「一寸先は闇」の国際秩序(2)米中対立の現在地
世界第一、第二の経済力を誇る米中の対立は由々しい問題である。第1次トランプ政権下で始まった対立はバイデン政権に継承されてきたが、トランプ第2次政権では主題はもっぱら経済に集中している。われわれも米中協議の行方を注...
収録日:2025-06-23
追加日:2025/08/14
なぜウェルビーイングが大事?DEIとの関係と価値の多様化
DEIの重要性と企業経営(2)人的資本経営とウェルビーイング経営
今、企業の中に「人的資本経営」が急速に浸透している。経産省の定義によると、人的資本経営とは、人材を資本と捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方のこと。類似する概念と...
収録日:2025-05-22
追加日:2025/08/15