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同じ職種で「給料に差が出る理由」は説明できない?
安倍内閣が「働き方改革」の目玉としてきた「同一労働同一賃金」。
2018年に入り、適用時期が予定よりも1年延期され、大企業は2020年度、中小企業は2021年度から同一労働同一賃金が適用されることになりました。一体どんな点が問題となるのでしょうか。また、そもそも同じ仕事でなぜ給料格差は生まれたのでしょうか。
きっかけは明快で、学部に入ってきた優秀な秘書が「もっと高給がもらえるから」とIBMに転職してしまったことでした。よくある行動ですが、教授は「『一物一価』の法則に反しているのは、なぜか」と分析をはじめます。
あらためて考えてみると、同じ商品に違う価格がついていたら、消費者はこぞって安い市場で買おうとし、売り手は逆に高値のつく市場で売りたいと望みます。そのため価格差はすぐ解消していくものなのです。ところが労働市場においては、「一物一価」の法則が機能していません。しかも職業や職種を問わず、国を超え、時代を超えて当てはまる現実で、先進諸国に著しい現象であることに教授は着目したのです。
もう一つ、「高賃金産業は、質の高い労働者を雇っている」という仮説も考えられます。後で出てくる、正規・非正規では「採用基準が異なる」とは、このことです。
しかし、ある産業の賃金と労働者のIQとの間に直接の関連性を認めることはできず、「根拠は薄弱だ」と、この説も教授は却下します。
賃金格差に関する先行研究として「効率賃金モデル」があります。A「怠業回避」モデル、B「雇用安定」モデル、C「逆選別モデル」、D「公正な賃金」モデルに分けられます。
Aでは、企業は市場相場より高い賃金を支払うかわりになんらかの監視をし、怠ければクビというシステムです。Bは「離職者を減らすための高賃金」で、構造的にAと変わりません。Cは賃金レベルが高いほど就職希望者の労働特性の平均も上がると考えるもの。Dは「平均以上の賃金は、従業員をより多く働かせる」との考え。いずれのモデルもすべての賃金格差をカバーして説明することはできず、労組の組織率も直接には関係しないことがわかりました。
「高給は質の良い人材を魅きつける」と日本以上に信じられているアメリカですが、賃金格差について十分納得のいく説明や実証結果はまだないことを教授自身が素直に認めたかたちになっています。
賛成派45%、反対派42.5%と、ほぼ五分五分の結果。賛成意見の根拠は「本来、そうあるべきだから」といった、考え方による理由。反対意見の根拠は「採用基準が異なる」「日本の人事は『人』基準」「業務の線引きが難しい」など、現実的な理由が並んでいます。
同じ仕事でなぜ給料格差が生まれるのか、問題の捉え方で大きく変わるところですが、日本においてその1つの答えとして明確なのは、正社員と非正規労働者という雇用形態の違いとその扱いにあるといってよいでしょう。いうなれば、各企業に求められているのは、人事制度の見直しであり、「同一労働同一賃金」とは、正規・非正規間の待遇差の解消に向けた取り組みなのです。
パートタイマー(非正規労働者)も正社員と同じような仕事をしているのだから、雇用形態に差はあるとしても、バランスのとれた賃金にしてあげましょうという従来の均衡処遇からさらに進んで、今求められているのが「バランスをとるのではなく同じ賃金にしなさい」という均等処遇なのです。
2018年に入り、適用時期が予定よりも1年延期され、大企業は2020年度、中小企業は2021年度から同一労働同一賃金が適用されることになりました。一体どんな点が問題となるのでしょうか。また、そもそも同じ仕事でなぜ給料格差は生まれたのでしょうか。
ノーベル賞学者を悩ませた「同じ職種で給料に差が出る」理由
米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授は、2017年10月ノーベル経済学賞受賞で注目される気鋭の“行動経済学”研究者。その著書『セイラー教授の行動経済学入門』では、現在の日本が抱える正規・非正規問題とは少し異なるものの「産業間賃金格差」と題して「同じ職種なのになぜ給料に差が出るのか」の章が設けられています。きっかけは明快で、学部に入ってきた優秀な秘書が「もっと高給がもらえるから」とIBMに転職してしまったことでした。よくある行動ですが、教授は「『一物一価』の法則に反しているのは、なぜか」と分析をはじめます。
あらためて考えてみると、同じ商品に違う価格がついていたら、消費者はこぞって安い市場で買おうとし、売り手は逆に高値のつく市場で売りたいと望みます。そのため価格差はすぐ解消していくものなのです。ところが労働市場においては、「一物一価」の法則が機能していません。しかも職業や職種を問わず、国を超え、時代を超えて当てはまる現実で、先進諸国に著しい現象であることに教授は着目したのです。
「高給は質の良い人材を魅きつける」のは本当か?
賃金格差を考えるにあたり、教授はまず「高賃金はそれを支払う産業における労働条件のうち、計測不能な、望ましくない何らかの側面への補償にすぎない」という仮説を排除します。簡単にいうと「ブラック企業ほど、高賃金で働き手を集めることが多い」わけではないということです。もう一つ、「高賃金産業は、質の高い労働者を雇っている」という仮説も考えられます。後で出てくる、正規・非正規では「採用基準が異なる」とは、このことです。
しかし、ある産業の賃金と労働者のIQとの間に直接の関連性を認めることはできず、「根拠は薄弱だ」と、この説も教授は却下します。
賃金格差に関する先行研究として「効率賃金モデル」があります。A「怠業回避」モデル、B「雇用安定」モデル、C「逆選別モデル」、D「公正な賃金」モデルに分けられます。
Aでは、企業は市場相場より高い賃金を支払うかわりになんらかの監視をし、怠ければクビというシステムです。Bは「離職者を減らすための高賃金」で、構造的にAと変わりません。Cは賃金レベルが高いほど就職希望者の労働特性の平均も上がると考えるもの。Dは「平均以上の賃金は、従業員をより多く働かせる」との考え。いずれのモデルもすべての賃金格差をカバーして説明することはできず、労組の組織率も直接には関係しないことがわかりました。
「高給は質の良い人材を魅きつける」と日本以上に信じられているアメリカですが、賃金格差について十分納得のいく説明や実証結果はまだないことを教授自身が素直に認めたかたちになっています。
人事が「同一労働同一賃金」に反対する理由は?
日本に話を戻して、「同一労働同一賃金」について企業の総務・人事担当者はどう考えているか、「新経営サービス 人事戦略研究所」が248人にアンケートを行った結果が公表されています。賛成派45%、反対派42.5%と、ほぼ五分五分の結果。賛成意見の根拠は「本来、そうあるべきだから」といった、考え方による理由。反対意見の根拠は「採用基準が異なる」「日本の人事は『人』基準」「業務の線引きが難しい」など、現実的な理由が並んでいます。
同じ仕事でなぜ給料格差が生まれるのか、問題の捉え方で大きく変わるところですが、日本においてその1つの答えとして明確なのは、正社員と非正規労働者という雇用形態の違いとその扱いにあるといってよいでしょう。いうなれば、各企業に求められているのは、人事制度の見直しであり、「同一労働同一賃金」とは、正規・非正規間の待遇差の解消に向けた取り組みなのです。
パートタイマー(非正規労働者)も正社員と同じような仕事をしているのだから、雇用形態に差はあるとしても、バランスのとれた賃金にしてあげましょうという従来の均衡処遇からさらに進んで、今求められているのが「バランスをとるのではなく同じ賃金にしなさい」という均等処遇なのです。
<参考文献・参考サイト>
・『セイラー教授の行動経済学入門』(リチャード・セイラー著、ダイヤモンド社)
・PRESIDENT Online:"同一労働同一賃金"なぜ人事は反対するか
http://president.jp/articles/-/23995
・『セイラー教授の行動経済学入門』(リチャード・セイラー著、ダイヤモンド社)
・PRESIDENT Online:"同一労働同一賃金"なぜ人事は反対するか
http://president.jp/articles/-/23995
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