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「地政学」とは?その考え方と理論をわかりやすく解説(小原雅博先生)
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
「地政学」という言葉を、耳にすることも多くなりました。では、「地政学」とは、どのようなものなのでしょうか。
本日は、テンミニッツTVで小原雅博先生(東京大学名誉教授)にお話しいただいた「地政学入門」講義を紹介いたします。地政学とはどのような手法や意義を持った学問なのかを、基礎から学ぶことのできる名講義です。
◆小原雅博先生:地政学入門 歴史と理論編(全7話)
(1)地政学とは何か
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地図を読んで国家と国家の関係を探り当てるのが「地政学」
さて、「地政学」とはどのような学問か。小原雅博先生は、講義の第1話でこうおっしゃいます。
《地政学という漢字を見ていただいたらお分かりのように、「地」と「政」による学問です。地理というものを取り入れることによって、国家と国家の関係、国際政治というものを解明していこうという学問なのです。英語で“Geopolitics”といいますが、「ジオグラフィー」と「ポリティクス」を兼ね合わせた、比較的新しい分野です》
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では、「地理」と「地政学」はどのように違うのでしょうか? 小原先生は、こうおっしゃいます。
《「地理」というと、地図、地図帳です。地図帳を開けると、ある国やある街がどこにあって、そこがどういう国であり、街であるか、例えば自然状況であるとか、人口であるとか、あるいはそれに関わるようないろいろなデータを客観的に映し出しています。
「地政学」は地図を読んでいく作業です。「地図を見る」ことによって、国家と国家の関係、あるいは大きなグローバルな政治のヒントを得て、探り当てていこう、読んでいこうということなのです》
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小原先生は子供の頃、地図帳を眺めて1時間でも2時間でも、「どういう街だろう」「なぜここで戦いがあったのだろう」などといろいろな想像をするのが大好きだったとおっしゃいますが、そのような興味関心がまさに「地政学」に直結するのです。
3つの柱…大国の競争、ユーラシア、ランドパワーとシーパワー
小原先生は、地政学の「3つの柱」として、
(1)大国の競争
(2)ユーラシア
(3)「ランドパワー」と「シーパワー」
を挙げます。
まず「大国の競争」について、小原先生は、地政学は「大国同士の関係に『地理』という文脈がどういった作用をしてきたのか」が中心になると指摘します。さらに、「国際政治は『リアリズム(現実主義)』と『リベラリズム(理想主義)』の2つの大きな学派があるが、地政学はリアリズムの系譜が根本にある」ともおっしゃいます。パワーポリティクスが、地理的条件のなかでどう行使されるのかがポイントとなるのです。
「ユーラシア」とは、まさに長い歴史を通じて、大国の競争が集中的に行なわれている場となっているのがユーラシアだということです。
「ランドパワーとシーパワー」という言葉も、最近よく聞きます。海上覇権を握る国がシーパワー。一方、大陸にあって多くの国と国境を接しつつ強大な陸軍力で覇を唱えるのがランドパワーです。
ランドパワーの国が、野望を持って海軍を増強した例もある。第1次世界大戦の前には、ランドパワーであった陸軍大国のドイツが、イギリスに対抗して海洋強国になることをめざしますが、それが第一次世界大戦の原因の1つでもあったといわれるのです。
続いて小原先生は、政治学者・知性学者であるニコラス・スパイクマンのこんな言葉をご紹介くださいます。
《地理とは外交政策において最も基本的なファクターである。何故ならば地理は不変であるからである》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5352
これも、まさしくそのとおりでしょう。日本は中国の隣から引っ越せるわけではありません。
国際政治において、政治指導者がどう考え、どう行動するかは重要なファクターですが、必ずしもすべて合理的に行動するわけではないので、先が読めない部分もある。しかし、地理はある種の客観性があり、不変性がある。だから、そこをしっかり読み解いていけば、先を読む1つのヒントになるのです。
ただ、地図を見る場合には、地図の図法によって印象が変わってしまうので、地球儀なり複数の地図を見る必要があるとおっしゃいます。たしかに日本が中心にある地図を見るか、アメリカやヨーロッパが中心にある地図を見るかで、印象は随分変わってきます。相手の国の立場に立って地図を見たときにどう見えるかも、案外重要なファクターなのです。
小原先生はこの見地から、アメリカ、ロシア、中国をご分析くださいます(講義第3話)。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5353
古代ギリシアの「シーパワー」と「ランドパワー」…その教訓
古代ギリシアでアテナイとスパルタが戦ったペロポネソス戦争(紀元前431年~紀元前404年)も、典型的なシーパワーとランドパワーの衝突でした。
その戦争の原因になったのは、ペルシアの侵攻に対して、ギリシア諸都市の連合軍が勝利したペルシア戦争(紀元前492年~紀元前449年)でした。ギリシア側の最大の勝因は、アテナイの海軍力でしたが、そのパワーの増大をスパルタが恐れたのです。
当初、スパルタがアテナイ側に攻め込んでも、アテナイの指導者ペリクレスは「陸で侵略されても、われわれには海がある。海があるかぎりわれわれは繁栄するし、われわれは将来に向けて富を培っていけるのだ。あまり陸に固執するな」と語ったといいます。
しかし、ペリクレスが病に倒れた後、アテナイはシチリアに侵攻します。この遠征で失敗して多くの軍勢を失ったことが、アテナイの最終的な敗北の大きなきっかけになるのです。
シーパワーを支える海軍力で問われるのは、港のネットワークや兵站などロジスティクスです。それがしっかりしてればこそ、富をもたらす海上交易を確保できる。しかしアテナイは、余計な領土獲得に乗り出して失敗してしまったのです。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5354
地政学の理論…シーパワー、生存権、ハートランド、リムランドとは?
さらに小原先生は、地政学の理論の先駆的な提唱者として、アルフレッド・マハン、フリードリッヒ・ラッツェル、ハルフォード・マッキンダー、ニコラス・スパイクマンの4人を取り上げます。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5355
アメリカの地政学者・マハンは、「海を制する者が世界を制する」と、シーパワーの重要性を説きました。
ドイツ人で「地政学の父」とも呼ばれるラッツェルは、ダーウィニズム(進化論)の影響を受けて、国家を有機体・生命体のように捉え、人口を伸ばし力を伸ばしていく強国には、それに応じた領土が必要だという「生存圏」理論を唱えます。この「生存圏」理論が、ヒトラーや戦前の日本にも大きな影響を与えました。
イギリスの地政学者であるマッキンダーは「ハートランド理論」を唱えます。ハートランドとは、ユーラシア大陸の中軸となる地域です。マッキンダーは「東欧を制する者はハートランドを制し、ハートランドを制する者は世界を制する」と主張しました。それゆえ、シーパワーは連携してランドパワーに対抗しなければいけないと説いたのです。
そのハートランド理論を発展させて、アメリカ人の地政学者のスパイクマンが「リムランド」理論を唱えます。リムランドとは、大陸の「縁(=リム)」にあたる地域です。この地域は、河口部の平野であることも多くて農耕にも適しており、しかも海もある。このリムランドの主導権を握ることが重要だと考えるのです。
アメリカの戦略は、「リムランドの勢力バランスにおいて、どこかの国が支配的な地位を占めることのないようにすること」だといいます。第二次世界大戦でもドイツと日本が、ユーラシア大陸のリムランドを席捲する可能性があった。だからアメリカはそれを阻止するために参戦したのだと。
19世紀からのイギリスとロシアの「グレイト・ゲーム(ユーラシア各地をめぐる争い)」も、また20世紀の米ソの「グレイト・ゲーム」も、まさにハートランドやリムランドをめぐる、ランドパワーとシーパワーの争いだったわけです。
さらに小原先生は、ジョージ・ケナンの「封じ込め戦略」や、グレアム・アリソンの「トゥキディデスの罠」について解説されますが、これについては、ぜひ講義の第7話をご覧ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5357
「地政学」の概念が、基礎からとてもよくわかる講義です。ぜひご覧ください。
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