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世界史の大転換点、世界と日本の未来を考える

2019年激変する世界と日本の針路(1)米貿易戦争の影響

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
2019年は世界史の大転換点を迎えていると、島田晴雄氏は言う。アメリカをはじめ、イギリス、EU、ロシア、中国、そして日本と、世界経済や日本経済においていったい何が起こっているのか。このシリーズレクチャーでは「激変する世界と日本の針路」について全14話で解説。第1話の今回はトランプ大統領が引き起こしている貿易戦争と、日本経済への影響について。(2019年1月28日開催島田塾会長講演「激変する世界と日本の針路」より、全14話中第1話)
時間:08:54
収録日:2019/01/28
追加日:2019/05/15
カテゴリー:
≪全文≫

●世界史の大転換点として世界や日本の問題を考えていく


 今は世界史の大転換点です。転換点ということを毎年枕詞で皆さんはおっしゃいますが、本当の転換点をわれわれは今、経験していると思います。今、何が起こっているのかということを、皆さんと共にしっかりと見ていきたいと思います。

 ドナルド・トランプ大統領が地球を壊そうとしています。何かというと、貿易戦争です。また、「No Deal Brexit」ということで、EUは危機で分解しそうです。中国は急速に減速しています。北朝鮮の核の問題はおそらくなかなか解決しないと思います。ロシアは北方領土を売りつけようとしていますし、安倍晋三首相は大丈夫なのかということです。こういった問題を全てカバーしますので、ひとつよろしくお願いします。

 このシリーズレクチャーにおけるトータルでの縦糸は、世界経済や日本経済、あるいは景気は大丈夫なのかといった話です。2019年は「景気は減退するだろう」と言われています。ただ後退になってくると嫌なのです。さらにいえば、ソフトランディングならいいですが、ハードランディングだと大変なことになります。もっと悲観的な人は「クラッシュするのではないか」とまで言っています。

 本日は皆さんと一緒に、こうした問題をしっかりと体系的に考えていきます。おそらく私がお話したことで、皆さんの頭の中でこうなるなということは、だいたい見当がつくだろうと思うのです。あまりうれしくない話なのですが、その上で、世界と日本の未来を考えたいというのが本日のテーマです。


●アメリカは貿易戦争を引き起こしている


 まずトランプ大統領です。貿易戦争は世界の景気後退の引き金を引く恐れがあります。冷戦が再来するかもしれない、ともいわれています。どういうことかというと、2018年3月にトランプ大統領はいきなり「鉄鋼・アルミの輸入が増えるのが、安全保障上の問題になっているので、関税をかける」と言いました。これには根拠法があるのです。耳を疑うでしょうが、1962年に制定されたアメリカ通商拡大法232条です。これは何かというと安全保障に関係する国から輸入しないという法律です。

 確かに、イランやリビアの原油などはアメリカにとってもちろん安全保障上の問題だったのでしょうが、それをカナダや日本などの同盟国に適用するというのはおかしいでしょう。

 さらに3月22日には知的財産権を中国が侵害しているから、不公正貿易に対する処罰を行う、として制裁関税をかけるというのです。これにも法律根拠があります。アメリカ通商法301条で、これがいつできたのかというと、1974年でなんと日本向けにできた法律なのです。この法律は、日本が不公正貿易、すなわちアメリカに輸出したら徹底的に叩くということでできたのです。

 ただその後、こうした喧嘩は良くないので、WTO(World Trade Organization、世界貿易機関)を創設し、紛争処理機構で行おうということになりました。WTOをつくったのはアメリカのビル・クリントン大統領ですので、これまで自制していたのですが、トランプ大統領は「もうやるぞ」ということでやり始めました。


●アメリカにとって中国は4つの問題がある


 そして、3月にUSTR(Office of the United States Trade Representative:米国通商代表部)が調査をしまして、中国は不当なことをやっているという結論になりました。そこには4つの手口があるといいます。1番目は外資規制、すなわち外資が入ってくるということです。そして技術移転をしろと強要するといいます。

 2番目は、アメリカの企業と中国の企業が仕事をしているときに、アメリカの企業だけを差別的にいじめることです。

 3番目は先端技術を持つアメリカの企業を買収することです。中国の企業が買収したといっているのですが、よく見たら国有企業ですから政府のお金です。

 4番目は人民解放軍がサイバー攻撃をして企業機密を盗んでいくことです。

 これらの4つの嫌疑をUSTR、通商代表が調査し、発表しているわけです。


●アメリカは中国からの輸入にいきなり関税をかける


 2018年5月に2回ほど、アメリカの代表団が中国に行って交渉しました。その時の高圧的な態度がすごくて、イギリスのコラム二ストが、これはほとんどアヘン戦争の時の態度で、対等な国に対する態度ではないと書きました。

 ただ、その中で、財務長官のスティーブン・ムニューシンという方は割合まともな人で、中国は副首相を出したのです。「最大限輸入しますから」と言ったら、ムニューシン氏は「一時休止にしよう」と言ったので、中国としてはうまくいったかなと思っていたのです。

 すると次の月に、トランプ大統領がいきなり、ムニューシン氏の言ったことを全く無視して「2,000億ドルに相当する10パーセントの関税をかける」と...
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