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恐慌は資本主義の必然―マルクスの予言が的中、評価急上昇

本当のことがわかる昭和史《3》社稷を念ふ心なし――五・一五事件への道(5)保護貿易と金解禁がもたらした昭和恐慌

渡部昇一
上智大学名誉教授
概要・テキスト
ニューヨーク・ウォール街の群衆
1929年の世界恐慌により悪影響を与えたのは、その翌年に成立したアメリカのホーリー・スムート法だった。この法により、世界貿易は1年で半分になったといわれる。そして当時、奇しくもマルクスが「資本主義は必然的に恐慌に陥る」と唱えていたことから、あたかもその予言が的中したように捉えられていた。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第三章・第5話。
時間:04:44
収録日:2014/12/22
追加日:2015/08/24
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≪全文≫
 さらにそんな日本を、昭和5年以降、アメリカ発の大恐慌と、浜口雄幸首相・井上準之助蔵相が進めた金解禁によるデフレのダブルパンチが襲うのである。

 昭和4年(1929)10月、ウォール街のニューヨーク証券取引所で、株価の大暴落が始まった。1920年代を通じてアメリカでは株への投機ブームが起きており、株価はバブル的に値上がりしていた。ついに、そのバブルが弾けたのである。

 だが、世界経済、そして日本経済に、より悪影響を与えたのは、その翌年(昭和5年〈1930〉)にアメリカで成立したホーリー・スムート法であった。アメリカ国内の産業や農産物を守るため、2万品目について関税率を平均50%引き上げるというこの法案は、1929年の株価大暴落の前に議会に提案されていたものであったが、それが株価の大暴落の引き金になったことにより、より悲劇を拡大させた。各国も米国に対抗して関税を引き上げたため、一説によれば、このホーリー・スムート法の影響で、世界貿易が1年で半分になったといわれる。とくに日本の輸出品に対する関税率はきわめて高く、800%というものもあった。

 これは私の母の話だが、私が生まれた昭和5年頃の不景気を思い出すと、夜中に目が覚め、冷や汗が出るほど厳しいものだったらしい。

 しかも、時の井上準之助蔵相は政策を誤り、昭和5年(1930)に金解禁(金輸出解禁)および緊縮財政政策を進めてしまった。

 当時は金本位制で、各国の通貨は金との兌換によりその価値が保証されていた。紙幣の価値はきちんと担保されるが、逆にいえば紙幣の発行量は、その国が保有する金の量に左右されることになる。

 第一次世界大戦が始まると、欧米各国は金と紙幣の兌換を停止し、金の輸出を禁止した。戦争中はどうしても輸入超過になるから、金が流出してしまう。金が流出してしまったら、金と紙幣が兌換である以上、紙幣の発行量を減らさざるをえなくなる。それではとてもではないが戦争は継続できなくなってしまうからである。

 第一次大戦が終わると、再び欧米各国は順次、金の輸出を解禁していく。だが、日本は戦後不況や関東大震災などの影響もあり、なかなか金輸出解禁に踏み切れずにいた。国内外から金輸出解禁を求める声が高まり、ついにそれに向けて動き出したのが、タイミングの悪いことに大恐慌とほぼ同時になってしまったのである。
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