●日本経済は、財政危機のリスクに直面している
今回のシリーズでは、日本がこれから中長期的に直面することになる、おそらく最も深刻な危機の問題について考えたいと思います。日本では財政赤字が年々累積し、しばらく前から世界最悪の状態です。財政赤字はGDPに対して、240パーセント以上にもなっているのです。これは、第二次大戦直後をも上回る数値です。
財政赤字が大きく膨張すると、それを返済することは次第に困難になります。国債の返済が困難だと市場が判断すれば、その国債を買う人は減り、国債価格が下がります。債券の価格と利回りは逆相関の関係にあるので、価格が下がると金利は上がります。金利が上がると、債務が膨張します。そして、返済必要額が増えていきます。そうなれば、さらに返済が困難になりますから、さらに価格が落ち、同時に金利が上がっていきます。こうした悪循環が、財政危機を引き起こすのです。
日本経済は今、そうした財政危機のリスクに直面しています。債務膨張と金利高騰が起きると、政府も企業も資金繰りが困難になるでしょう。最悪の場合には、政府が活動を停止し、企業の生産や雇用もストップします。つまり、経済破綻が国家破綻につながっていくわけです。こうしたリスクがだんだんと近づいているのです。
●社会保障会計のワニの口が広がった
実は1990年代の初頭まで、日本は財政収支も政府債務残高も、世界主要国の中で優等生でした。それが2000年代に入ると、急に世界最悪の借金国になったのです。一体何が起きたのでしょうか。
専門家の間で「ワニの口」という表現がありますが、その理由の1つは、社会保障会計のワニの口が広がってきたということです。1990年代から2000年代にかけて、いわゆる「失われた20年」の間に、経済成長率は1パーセント前後にまで低迷しました。デフレが長期にわたり、賃金も上昇していません。社会保険料は賃金と連動しているので、この状況下では、保険料の収入が増えません。一方、この期間には、高齢化が世界最速のスピードで進みました。したがって、年金、医療、介護といった社会保障給付費が急増します。給付費が増える一方で、拠出は増えなかったために、社会保障会計の赤字が大きく広がっていきました。これを「ワニの口」といいます。
●10年後には、政府の総債務が国民純貯蓄を上回る
もう1つ、ワニの口があります。それは財政のワニの口です。社会保障会計の赤字は、公債発行で賄われたので、一般政府の債務が増大しました。一方、経済は長期停滞しているので、税収は伸びません。こうして、財政のワニの口が拡大してきたのです。
しかも2025年前後からは、戦後に生まれた団塊の世代が75歳以上になります。そうすれば、医療費が急激に高まりますので、財政のワニの口は一層広がり、財政危機のリスクが高まります。今、日本はこうした状況に直面しているのです。
また、高齢化の進展に伴い、貯蓄率がどんどん減ってきています。国民貯蓄は、ほとんど伸びなくなっています。10年後には、政府の総債務が国民純貯蓄を上回るでしょう。これは、国債を購入する原資の不足を意味します。国債の買い手がいなくなれば、国債価格は下がる以外にありません。金利が高騰していくでしょう。こうした危機のリスクを回避する、あるいは克服するにはどうすればいいでしょうか。
●長期にわたる大幅な増税が最も有効な解決策である
王道は財政再建、あるいは財政健全化しかありません。これを実行するには、基本的には3つの方策があります。第1に増税、第2に行政改革や社会保障改革などによる歳出の削減、そして第3に経済成長戦略です。
この3つの中でも、特に長期にわたる大幅な増税が最も有効な解決策ではないかということは、いろいろな状況を精査すると見えてきます。2017年7月にIMF(国際通貨基金)が日本レポート(Japan Report)を出しました。IMFの専門家によれば、増税のショックを最小化するためには、小刻みな増税が望ましいのですが、しかし同時に、財政再建のためには大幅な増税が必要なので、長期的に増税していって、やがて15パーセント程度にする必要があるとのことです。
●全世代を包摂する社会保障制度が求められる
増税によって国民の負担を高めるということは、いわゆる高負担社会を志向するということです。ただし、現状の日本の社会システムでは、高負担社会を国民はまず受け入れないでしょう。高負担を国民に要求するのであれば、国民が本当に安心できる、総合的な社会保障システムの構築が必要です。
1990年代以降、日本の経済社会は、歴史的な構造変化を経験してきました。企業行動も、雇用構造も、家族構造も、社会構造も全面的な変化を被ってきたのです。高度成長時代に構築された社会保障制度は、現代社会の...