テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2015.08.17

インドは長期好景気に恵まれるのか?

 インドでは2014年5月の総選挙で、モディ政権が発足した。ナレンドラ・モディ首相が掲げる政策で特に注目されるのは、製造業を重視する「メイク・イン・インディア政策」だ。高島修氏(シティグループ証券チーフFXストラテジスト)にお話を伺った。

経済発展のプロセスが全く違ったインドの問題

 インドは長く第一次産業に依存していたが、そこから製造業を飛び越えて、第三次産業が伸びてしまった。製造業が発展してこなかったことが、インドの中間層形成が遅れた理由の1つだといわれている。そこで今、モディ政権はここに注目し、製造業を成長させる政策を打ち出しているというわけだ。

 かつてのアメリカや日本、近年の中国などは、農業を中心とした第一次産業から、工業を中心とした第二次産業が立ち上がり、最終的にサービス産業を中心とした第三次産業に移行していった。

 インドはもともと第一次産業への依存度が高い中で、第二次産業の製造業あたりが伸びてくる前に、金融、建設、ITなど第三次産業を中心に伸びていった経緯がある。日本、アメリカ、中国などとは違う経済発展の道をたどったのだ。

インドの人口、3つの強みとは?

 インドの人口を考えるとき、強みとして3つのポイントが挙げられる。

 1つ目は、何といっても労働資源となる人口の増加だ。全人口は現在約12億人。しかも人口は今後も増えていき、おそらく2030年代には中国を抜いて、世界第1位になると予想されている(2015年7月29日の国連予想では、2022年に中国を抜くと予想を前倒しした)。

 2つ目は、人口がただ伸びるだけでなく、16歳から65歳までの生産年齢人口比率が上昇していき、ピークアウトと予想される2040年前後まであと25年もの人口ボーナス期が続く。

 ちなみに、中国の生産年齢人口比率は、今ちょうどピークアウトしようとしているところだ。そのため、今後の中国の経済成長率は、今後7パーセントか、6パーセントに下方屈折するのではないかといわれている。

 過去、日本やアメリカで生産年齢人口比率がピークアウトした時、すなわち日本は1990年頃のバブル崩壊、アメリカは2008年のリーマン危機の時には、どちらも大きな経済的転換が起こった。今の中国にも、このようなことが起こるリスクがあるだろう。

 3つ目は、「ルイスの転換点」がまだ遠いことがあげられる。ルイスの転換点の「転換」とは、農村部から都市部への労働人口の移転のことだ。

 前述の通り、産業構造上、インドは長い間、第一次産業に依存しており、労働人口は依然として5割近くが第一次産業に就業しているといわれている。つまり、農村部から都市部へと労働人口を移転させていく余地が大きいのだ。これがインドの人口動態上の強みといえる。

 当然プラスの側面だけでなくマイナスの側面もあるが、悪状況に陥らないためには、経済発展、所得の向上が欠かせない。そういった中で、メイク・イン・インディア政策が持つ意義は大きい。

インドの外部環境

 インドの外部環境を見ると、中国の生産年齢人口のピークアウトが、世界的な製造拠点の再編につながる可能性がある。これは非常に大きな話だ。そういった環境下において、インドでは生産年齢人口が増えていくことになるのだ。

 さらに、アメリカのエネルギー革命の影響もあり、資源価格が全般的に下がっている現状は、インドの課題であるインフラを拡充する絶好の投資機会といえる。

 最近、中国が提唱している「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が話題になっている。これに対抗して、これまでアジア世界の金融の中核を担ってきた日本・アメリカ主導の「アジア開発銀行(ADB)」が、アジアへのインフラ融資をより積極的に行っていく姿勢を見せ始めている。つまり、インドのインフラ投資におけるファイナンス環境も整ってきている。

 10年、20年単位のロングストーリーではあるが、モディ政権がメイク・イン・インディア政策を推進するに当たっては、国内外ともにいい環境になっていると考えられる。今後のインドに目が離せないことは確かだ。

~最後までコラムを読んでくれた方へ~
物知りもいいけど知的な教養人も“あり”だと思います。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,300本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制は民主主義的で、野党もブレーキ役に担っていた

55年体制と2012年体制(1)質的な違いと野党がなすべきこと

戦後の日本の自民党一党支配体制は、現在の安倍政権における自民党一党支配と比べて、何がどのように違うのか。「55年体制」と「2012年体制」の違いと、民主党をはじめ現在の野党がなすべきことについて、ジェラルド・カ...
収録日:2014/11/18
追加日:2014/12/09
2

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gはなぜワールドワイドで推進されていったのか

5Gとローカル5G(1)5G推進の背景

第5世代移動通信システムである5Gが、日本でもいよいよ導入される。世界中で5Gが導入されている背景には、2020年代に訪れるというデータ容量の爆発的な増大に伴う、移動通信システムの刷新がある。5Gにより、高精細動画のような...
収録日:2019/11/20
追加日:2019/12/01
中尾彰宏
東京大学 大学院工学系研究科 教授
3

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミは本来、与野党機能を果たすべき

マスコミと政治の距離~マスコミの使命と課題を考える

政治学者・曽根泰教氏が、マスコミと政治の距離を中心に、マスコミの使命と課題について論じる。日本の新聞は各社それぞれの立場をとっており、その報道の基本姿勢は「客観報道」である。公的異議申し立てを前提とする中立的報...
収録日:2015/05/25
追加日:2015/06/29
曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授
4

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITのEU首脳会議での膠着

BREXITの経緯と課題(6)EU首脳会議における膠着

2018年10月に行われたEU首脳会議について解説する。北アイルランドの国境問題をめぐって、解決案をイギリスが見つけられなければ、北アイルランドのみ関税同盟に残す案が浮上するも、メイ首相や強硬離脱派はこれに反発している...
収録日:2018/12/04
追加日:2019/03/16
島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
5

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か?取り組み方とメリット

健康経営とは何か~その取り組みと期待される役割~

近年、企業における健康経営®の重要性が高まっている。少子高齢化による労働人口の減少が見込まれる中、労働力の確保と、生産性の向上は企業にとって最重要事項である。政府主導で進められている健康経営とは何か。それが提唱さ...
収録日:2021/07/29
追加日:2021/09/21
阿久津聡
一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授