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DATE/ 2016.07.21

息子は「早実の怪物」清宮克幸の「監督術」4つのポイント

スポーツ界を超えて注目される「清宮流監督術」

 強力なリーダーシップと確かなチーム育成力で、早稲田大学やヤマハ発動機のラグビー部を優勝に導いてきた清宮克幸氏。今では、早稲田実業野球部の2年生スラッガーとして注目され、高校野球界の「怪物」と騒がれている清宮幸太郎選手の父親としても世間の目耳を集めている指導者です。

 早稲田大学、サントリーでの現役時代にキャプテンを努めた清宮氏は、監督としても結果を出し続けてきました。2001年の現役引退後、すぐに監督に就任した早稲田大ラグビー部では「アルティメット・クラッシュ」をスローガンに掲げて、関東大学対抗戦で史上初の5年連続優勝を達成し、黄金期を築きます。トップリーグの社会人チームをも脅かす、早稲田大ラグビー部の破壊力と大人びた組織力は、多くのラグビーファンに驚きを与えました。

 その後、サントリーラグビー部の監督を経て、2011年2月にはヤマハ発動機ジュビロの監督に就任。トップリーグからの降格の危機にみまわれるほど低迷していたチームを立て直し、就任4年目で日本選手権優勝を2015年に達成。見事、日本ラグビー界の頂点に立ったのです。

 清宮氏のつくるチームは、明確な方針のもと、選手が個々の力を出し切りながら、高いチーム力を発揮してきました。その指導手腕は著作にまとめられるなど、スポーツ界を超え、ビジネス界でも注目を浴びています。

 セクションの責任者として、あるいは、プロジェクトのリーダーとしてチームの部下をまとめあげ、様々な取引先や経営陣との折衝を繰り返し、結果を出す。そんなポジションで奮闘しているビジネスパーソンも多いことでしょう。今、そういった世界で勝負に挑む人たちも、「清宮流監督術」から何かのヒントを得ようとしている、というわけです。

「清宮流監督術」のポイントとは?

 清宮氏は10MTVの中で、ヤマハ発動機ジュビロでの経験を中心に自らの監督術について語っています。ここではそのポイントをいくつか紹介していきましょう。

1.現有戦力を財産とする

 大量のレギュラー選手が移籍。トップリーグの残留の危ぶまれる、という最悪のタイミングで清宮氏はヤマハ発動機の監督に就任。しかし、あえて、現有戦力を財産として活用する方針を打ち立てます。そして、堂々「日本一」を宣言したのです。何故、無謀とも思えるこのような方針を立てたのでしょうか。清宮氏はこう話しています。

 「チームには財産がありました。それは、厳しいなかで残った人間たちだけで1年間耐え忍んだことです。この財産はすごく大きかった。僕はそれを翌年からうまく利用しようと思ったのです」

 当時は、あまりにも苦しい1年間だったので、選手は1勝しただけで優勝したように喜ぶ。負けるとシーズンが終わったかのように落ち込んでいたそうです。清宮氏は、この「勝利にかける気持ちこそが財産」だと見立てたわけです。「だったら、同じメンバーのままで結果を変えればいい」。清宮氏は財産を生かすための戦略を打ち立てていきます。

2.突き抜けたものをつくる

 就任1年目のシーズン。順位こそリーグ8位ながら、失点の少なさでは2位、得点数は4位。まずますの手応えを残したヤマハ発動機。清宮氏が2年目に取り組んだことは「突き抜けたもの」「他のチームがやっていないこと」に着手すること。そこで定めたのが「ヤマハだけのスクラム」づくりでした。

 「スクラムにこだわるチームづくり」は清宮氏の持論。スクラムを制すれば、その他のプレーで慌てることがなくなり、メンタル面で優位に立てるからです。

 清宮氏はチームを引き連れフランス遠征に。8チームを相手に、スクラムだけをひたすら組みます。まさにスクラム修行。この遠征で、ヤマハ発動機は様々なスクラム文化に接し、自分たちに合うスタイルを取り込んで帰国しました。

 やがて、チームは「スクラムのヤマハ」として存在感を発揮し始めることに。突き抜けた武器を手にした選手たちのメンタルは強化されていきました。

3.「ベースからスタイル」をつくる

 スタイルを貫くことができれば、どんなコンディション、プレッシャーの下でも力を発揮することができるはず。

 しかし、清宮氏はスタイルづくりの前に大事なのはベースづくりだと述べています。「ベースができていないのに、スタイルだけを追求しても結果に繋がらない」「個々のベースアップをせずにチーム力でごまかそうとしても通用しない」、ベースの上にスタイルを追求しない限り、本物にはなれないのです。

 清宮氏は「タックルしても、すぐに立ち上がってファイトし続けるチーム」というビジョンを、1年目から掲げてきました。スクラムと並ぶ、ヤマハ発動機だけの強さが欲しかったからです。そこで取り入れたのがレスリングのトレーニング。オリンピック銅メダリストのコーチが招かれ、選手たちは悲鳴をあげながら「タックルをしては起き上がる」動作を延々と繰り返したそうです。清宮氏はこう話します。

 「繰り返し行い、個々が自信をつけ、年々積み重なっていくとチーム文化になる」

 清宮氏は最初の2年間をベースづくりと定め、自分たちにあったスクラムの模索と、タックルしてもすぐに立ち上がる動作トレーニングを繰り返しました。そして3年目から、いよいよ「どんな状況でも自分たちのスタイルを貫こう」と方針転換していくのです。ここからヤマハ発動機の巻き返しが始まります。

4.敗北の教訓を生かす

 「大一番で普段以上の力を出す必要はない。いかにいつも通りの力を出せるかが大事」

 清宮氏は、日本選手権を制する4週間前に喫した、力を出し切れずに終わった敗戦から、このような教訓を得ます。その結果、リラックスして大一番を迎えることに。失敗しながら学び、大一番に生かすことが大事なのです。

伝える力を重んじ、選手を鼓舞する場をつくる

 このほか、選手やコーチにわかりやすい言葉で伝える「言葉力の必要性」、勝ち抜いてきた者だけが立てる場とそこに立ちたいと選手を鼓舞する「場づくりの大事さ」なども、大切なポイントとして語っています。

 2015年2月28日。東京・秩父宮ラグビー場、日本選手権の決勝戦。試合はヤマハ発動機ジュビロがリードしてノーサイドの時を迎えようとしていました。今、このプレーが切れれば試合終了というなか、リードするヤマハ発動機ジュビロはボールをキープ。あとはこのボールをフィールドの外にけり出すだけ…。

 しかし、ヤマハ発動機ジュビロの選手たちはひとつになってスクラムで押し続けました。ボロボロだった自分たちを変えた「意地のスクラム」で矜持をあらわしたのです。このシーンは日本スポーツ史の語り草となっていくことでしょう。
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