テンミニッツ・アカデミー講義録『“自由喪失の危機”に読みたい自由主義の近現代史』を発刊した柿埜真吾氏。このタイトルのとおり、今、世界的に民主主義は動揺し、自由は喪失の危機にあるともいえるだろう。世界的な危機といえば、斎藤幸平氏の『人新世の「黙示録」』も注目されている一冊である。斎藤氏はこの本で、今、気候崩壊の危機であり、これを回避するためには、資本主義の暴走を止める計画経済とエコロジー独裁が必要だと説く。この2冊の本が主要なアクターとして取り上げているのがハイエクである。斎藤氏は「最悪の結末を避けるためには、マルクスによってハイエクを乗り越える作業が不可欠」だと書く。一方、柿埜氏は、ハイエクが計画経済を否定する論法を高く評価する。世界中で「危機」が高まる今、なぜハイエクの自由主義を学び直すべきなのか。市場経済と人間の本質を深く掘り下げる。(全2話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツ・アカデミー編集長)
≪全文≫
●「ハイエクの呪縛を解く」と論ずる斎藤幸平氏
―― 皆様、こんにちは。本日は柿埜真吾先生をお招きいたしまして、柿埜先生が新しく出されましたこちらの御本、『“自由喪失の危機”に読みたい自由主義の近現代史』のご紹介をしたいと思います。柿埜先生、どうぞよろしくお願いいたします。
柿埜 よろしくお願いします。
―― こちらの御本ですけれども、「テンミニッツ・アカデミー講義録」ということで銘打っておりまして、以前、柿埜先生にテンミニッツでお話しいただきました『日本人が知らない自由主義の歴史』前編・後編、こちらをまとめた一冊というところでございます。前回『日本人が知らない自由主義の歴史』を配信したのが2022年のことだったというところで、少し間が空きましたが、その間、ここにあるように「自由喪失の危機」という状況がさらに厳しくなったという状況でしょうか。
柿埜 そうですね。アメリカのトランプ大統領が(第二期で)就任してから、自由貿易体制を脅かすような相互関税をかけたり、あるいは大統領令を乱発して議会を無視し、司法の独立を脅かすように裁判所や憲法を無視するようなことを行なっているという状況です。アメリカはもはや民主主義ではないという評価をいくつかの機関がしている状況になっているくらいでして、自由の砦であったはずのアメリカも揺らいでいますし、一時期は民主化した東欧の国がまた元に戻って権威主義体制に戻っていったり、あるいはインドのような国でも民主主義が脅かされています。ヨーロッパに関しても極右が台頭したりして民主主義が危うい状況にあるという形になっています。日本でも最近は陰謀論が流行していたり、安倍元首相が暗殺されたりといった出来事もありましたし、日本にとっても他人事ではないという、そういう状況になっています。まさに自由喪失の危機にあるという、そういう状況だと考えています。
―― 今、柿埜先生にご紹介いただいたように、アメリカのトランプ大統領のいろいろな問題をはじめ、しかもアメリカだけではなくヨーロッパも非常に混乱した状況にある中で、どうしてもいろいろな議論が湧き起こってくるわけですが、日本においても非常に印象深いのがこちら、斎藤幸平先生の『人新世の「黙示録」』という、こちらも最近出た本でございますが、こちらも非常に印象深い本です。以前、斎藤先生は『人新世の「資本論」』を出され...