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当時の海外でも人気を博した小説は「大正」という時代の産物

本当のことがわかる昭和史《2》軍縮ブームとエネルギー革命の時代「明治の精神」の死(3)「みんなみんなやさしかつたよ」

渡部昇一
上智大学名誉教授
概要・テキスト
厨川白村『象牙の塔を出て』
国立国会図書館デジタルライブラリー
大正時代に台湾や中国でも人気を博した厨川白村の小説や、大正から昭和にかけて歌われた『からたちの花』などの童謡――これらは陸海軍大臣が現役軍人に限定されず、軍部が口を出さなかった時代の産物であることは間違いない。上智大学名誉教授・渡部昇一氏によるシリーズ「本当のことがわかる昭和史」第二章・第3話。
時間:03:37
収録日:2014/12/15
追加日:2015/08/17
≪全文≫
 大正時代は、なんだかんだといいながら、良い時代だったと思う。
 
 この良き時代を象徴する人物の一人は、厨川白村(くりやがわはくそん)であろう。現在では話題に上ることが少なくなったが、大正の頃、盛んに執筆活動を行ない、「厨川白村の時代」といってもよいほど圧倒的な人気を博していた。『近代文学十講』や『近代の恋愛観』などといったベストセラーを数々生んでいる。それで得たお金で鎌倉に別荘を建てたので「恋愛館」などと渾名(あだな)されたほどだったが、残念ながらその別荘で関東大震災(大正12年〈1923〉)に罹災し、亡くなってしまった。

 ついでにいえば、厨川白村の作品は現在でも台湾やシナでも大いに人気を博している。これはちょうど近代化に向かうシナ人たちが望むものだったからであろう。日本の近代化の初めと同じで、軍部が口を出さない時代に人々から求められるものなのだと思う。

 この大正から昭和の初めにかけて、『からたちの花』や『青い眼の人形』といった、われわれもよく知っている懐かしい雰囲気を持った童謡も、数多くつくりだされている。

 直接の因果関係があるかどうかは別として、要するに、これらは陸海軍大臣が現役軍人に限定されていない時代の産物であることは間違いない。
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