●明治維新には多様な歴史観がある
今年は明治維新150年ですので、今回の講話は明治維新がテーマです。明治維新という言葉はhousehold word(その家で誰も知らない人はない言葉)です。アメリカ人にとってhousehold wordは南北戦争であり、中国人にとってはおそらく三国志だと思います。
そして、明治維新については非常に多様な歴史観があります。歴史の学びは、それによって未来を理解し、未来に指針を得るために行われます。今日は幕末維新の事実を知ることで、一人一人の歴史観を持てるようにするという試みです。
●官軍史観・薩長史観・官製史観~日本の近代史教育の正史~
明治維新にはさまざまな歴史観があります。1つ目は、官軍史観、薩長史観、あるいは官製史観と呼ばれるものです。これは、幕藩封建体制を倒して近代国家を打ち立てたのは薩長による維新革命だとするものです。この歴史観によれば、薩長による維新革命が列強による植民地化を防ぎ、独立国家を樹立して急速な近代化を達成し、天皇制を中心とする中央集権国家を確立したのだと考えられています。
これは、明治時代から今日までの日本の近代史教育の正史であり、「正しい」歴史です。そして、世の中の通説です。明治時代から今日まで日本の支配層の中枢人脈は、実は薩摩と長州からきている、という見方でもあります。
●占領軍史観・東京裁判史観~明治維新も大した変化ではない~
これに対して2つ目の歴史観は、占領軍史観と私が呼んでいるものです。東京裁判史観とも言います。これは、戦前には今の日本の原型などなく、単に封建的な軍事国家があったに過ぎず、見るべきものは何もないというものです。この史観においては、日本が今日の近代国家になったのは、アメリカ占領軍による民主化のための教導によるのだと見なされます。そのため明治維新も、幕藩封建体制から藩閥中央集権体制に移行しただけの問題であり、大した変化ではないという見方です。
この史観とそっくりなのが左翼史観です。まさに日教組(日本教職員組合)はこのように子どもたちに歴史を教えています。そのため、子どもたちもこのような考え方を持っています。それに対して権力を握っている人は薩長史観です。
●司馬史観~占領軍史観や左翼史観に対するアンチテーゼ~
3つ目は、司馬遼太郎氏の史観です。司馬氏は100冊程本を書いているのです...