●医療費と介護費の合計が年金よりも多くなった
年金に加えて、社会保障のテーマには医療と介護があります。医療・介護は、高齢化の進展に伴って急速に給付費が増大しており、大変重要です。
グラフを見てください。社会保障全体が、急速に増えていることが分かります。緑の部分が年金です。もちろん年金も増えていますが、一番伸びが激しいのが、医療です。高齢化が進むにつれて、医療費は波を描くようにして増えていっています。そして、最近になって伸びが著しいのが、介護です。最近では、ついに医療と介護を足した分が年金よりも多くなってしまいました。
●医療・介護は雇用を生む
医療・介護費は、これだけ伸びも比重も大きくなっていますから、やはり適切にコントロールする必要があるでしょう。ただし、お金だけが問題なのではありません。年金はお金だけですから、ある意味で数字の計算で済みますが、医療と介護は現業サービスです。国民一人一人の健康と生活に直結しているため、別の配慮が必要です。受給者の生活ニーズを踏まえて、生活の質を落とさないように、適切な改革が求められます。また、医療・介護はサービスを提供する活動ですから、雇用を生みます。産業としても非常に大きな比重があり、経済活動にもそれなりに貢献しています。
2006年から2016年までの間に、日本では就業者数が6,389万人から6,465万人に増えました。10年間で76万人の増加です。製造業では、同じ期間に1,163万人から1,045万人と、118万人も減っているのに対して、医療・福祉は571万人から811万人と、240万人も増えています。雇用機会も増えているし、産業活動もGDPもその恩恵を受けています。したがって、医療費・介護費は、ただ減らせばいいというわけではありません。
●日本の医療関係者は、医療に注力できない
日本では1961年に、国民皆保険・皆医療が整備されました。当時、日本は発展途上の中進国です。所得も低く、経済力も不十分でしたが、国民全員に統合された保険制度をつくり、平等に医療サービスを提供することにしたのです。これは世界でも傑出しています。これほど早く医療制度を整備した国は、数えるほどしかありません。今でもそうですが、日本では健康保険証が一枚あれば、全国どこへ行っても同じ医療サービスを受けることができます。こうした体制は、世界でも本当にユニークです。これは大いに誇るべき仕組みでしょう。
しかし、問題もあります。国民皆医療体制は、医療資源の蓄積がまだ大変不十分な中でつくられました。したがって、サービスを提供する場合に、大変なひずみが生じてきたのです。今でも日本の医療関係者は、長時間労働、過重な労働、そして低賃金を強いられ、病院もほとんどが経営難です。
例えば、アメリカやドイツでは「パラメディカル」と言って、医者は医療に専念し、会計計算や労務管理などは、別の人が行います。ところが、日本ではこのほとんどを医者が行っています。医療に注力できないのです。
●日本は目を覆うばかりに、医者が少ない
他方、患者から見ても、多くの問題があります。ベッド当たりの医療人員が、極めて不足しているのです。先進国の中で日本は、入院日数が非常に長くなっています。例えば、OECDの調査によれば、1990年代の日本の入院日数は、平均して35日です。これはあまりにも恥ずかしいので一生懸命改善して、最近はようやく17日程度になりました。ところが他の国と比べてみると、過去20年間で、フランスは5日程度、アメリカは5日程度、イタリアは約6.7日、イギリスは約7.5日、ドイツは約7.9日です。日本はこれらの国に比べて、倍から3倍、かつては4倍もありました。
それは、人口当たりのベッド数がものすごく多いからです。1,000人当たりのベッド数を見れば、日本は13、ドイツは8、フランスは6、イギリス7、アメリカ3です。国民皆医療を敷き、人口当たりのベッド数を増やすことに、資源を配分してきました。しかし、人材が追いついていません。病床100当たりの医者の数は、2014年時点で、日本が17.9人、ドイツは49.9人、フランスは53.8人、イギリスは102人、アメリカは88人です。日本は目を覆うばかりに、医者が少ないのです。
そのため、入院すると、医者が弟子たちを何十人も連れて回診に来るのを、今か今かと待たなければいけなくなります。患者はベッドにくぎ付けです。サービスを提供する側も受ける側も、とてもひどい状態なのです。無理をして立派な制度をつくった帰結かもしれません。
●日本の医療は、内容が極めて不十分だ
国民皆保険、皆医療で、病院ベッド数を増やしてきたのですが、サービスが追いついていません。要するに、人材配置が少ないということです。その結果、3時間待って3分しか診察されないとか、医者は都市にいて地方にはいな...